投稿日: Jan 10, 2020 6:46:38 AM
本書の著者であるshizu氏は、自閉スペクトラム症の子どもをもつ母親であり、「自閉症療育アドバイザー」の肩書をもつ。本書は、著者が、我が子の療育の中でABAに出会い、それを家庭療育に取り入れ、「私が息子を相手に実践してきた言葉かけの中で効果があったもの」(本書,10頁)を中心に紹介している。いわば、本書は、「言葉かけ」を中心とした家庭における応用行動分析(Applied Behavior Analysis:ABA)に基づく、主に自閉スペクトラム症(かつ、ある程度発話や言語理解のある)の子どもを対象にした療育の入門書といえる。
ABAに基づく家庭療育に基づく書籍の多くは、望ましい行動(言葉も含めて)の身に付けさせ方、望ましくない行動(問題行動)の消し方、これらのためのアセスメントや強化の仕方が中心である。本書は、これらの内容を踏まえつつ、日々の生活の中でのほめ方、しかり方、親子関係の形成に関して4コママンガも含めて具体的な場面を挙げて、言葉のかけ方について解説している。つまり、日々の生活、日々の子育てそのものを療育に変化させるためのABAを学ぶことができる。
以下、ほめ方に関していくつかの具体的な場面を紹介する。なお、子どもをほめることは応用行動分析学的にいえば、子どものある行動を増やす手続きである「強化」であり、ほめ言葉は子どもにとってその行動を増やす、「正の強化子(書籍によっては好子)」である。
(1)「せっかくのほめるチャンスを逃していませんか?」
食事の時の子どもの姿勢に関して、対照的な2つの場面(4コマ漫画)が紹介されている。
私たちは、年齢相応にできていることに対しては言葉をかけることはあまりないが、できていない時には注意をしがちである。そうではなく、子どもが「意識的に努力してやっていること」に対しては、「その努力をねぎらう意味でもほめ言葉をかけ」(本書、48-49頁)ること、「普通にしているとき、こまめにほめる」(本書、46頁)ことが大切である。
(2)「ほめ効果を台なしにする言葉かけに注意」
ここでは、ほめたことを台なしにする二つの場面が示されている。一つ目は、子どもがおもちゃをきちんと片づけた際に、母親が「片づけてくれたの」と子どもをほめた後に続けて、「やればできるじゃない。こんどは言われなくても片づけられるようになってね」と余計な一言をかけている場面である。「やればできるじゃない」という言葉は、「ほめたつもりでも、裏を返せば『いままでやらなかっただけでしょ』と、努力の過程を評価していないと受け取れます」(本書、50頁)。さらに「やればできるじゃない。こんどは言われなくても片づけられるようになってね」は嫌味と受け取れる。
二つ目は、子どもが嫌いなピーマンを食べたので、母親が「ピーマン食べたの?えらいえらい!」とほめた後に、「でも、さとしくんはニンジンも食べられるんだよ。すごいよね」と言ったことで、子どもは「がんばってピーマン食べたのに・・・」と心の中でつぶやきながら涙を流している場面である。ほめた後に他人と比較したり、すぐに次の課題を与えたりするのも子どもにとってはマイナスイメージで受け止められてしまう。
以上、ほめ方に関する箇所を紹介したが、こういったことは家庭だけでなく、ややもすると保育場面でも見られがちである(個人的な経験で恐縮だが、巡回相談で保育を観察する際にこういった言葉かけに遭遇することがある)。本書は他にも遊びや生活の中での言葉かけなども紹介されており、障害のある子どもの家庭での療育にとどまらず子育て全般、そして保育においても大いに活用できる。さらに保育者が日々の自らの言葉かけを振り返るのに有用な文献である。
そして、本書のタイトルに「魔法の言葉かけ」とあるが決して「魔法」ではなく、ABAの理論に基づく、保育者には習得してもらいたい基礎的な援助理論・技法である。
(紹介:鶴 宏史,2020年1月6日)
目次
はじめに
第1章 ABAを利用した言葉かけのすすめ
第2章 ABC分析で子どもに対するイライラを減らそう
第3章 ほめ上手になろう
第4章 遊びを通して親と子のいい関係を築く
第5章 叱るとき、指示を出すときの言葉かけ
第6章 子どもの問題行動への7つの対処法
第7章 子どもを伸ばす日常生活での言葉かけ
第8章 ABAを利用した働きかけを続けるための7つの鍵
第9章 子どもの療育にのぞむあなたに伝えたいこと
おわりに
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