投稿日: Sep 11, 2019 12:15:50 AM
保育所等の社会福祉施設等の建設にあたって、地域住民の反対で計画中止や延期となる事例は全国各地で報告されている。こうした地域住民と施設建設者側との争いを「施設コンフリクト」というが、本書は、主に精神障害者福祉施設における施設コンフリクトに焦点を当て、事例を丁寧に分析し、合意形成までのポイントや具体的なマネジメント手法を提案し、解決への道筋を示している。まず、著者は、先行研究や事例分析から以下のことを指摘する。
「精神障害者について理解している」ことと「障害者施設の建設について理解する」こととは別であり・・・精神障害者への理解を深めることが、施設コンフリクトの解消に結びつくという関連性を確認することはできません・・・理性では理解できていても、感情では納得できないところに当該問題の根深さがあり、理屈ではないところに問題解決の難しさがあるのです・・・「精神障害者への理解が、施設コンフリクトの合意形成や施設と地域住民との良好な関係性に影響を及ぼす」という、「理解重視アプローチ」には、限界がある・・・。(本書79-80頁)
もちろん「理解重視アプローチ」が必要ないというわけではないのだが、これだけであれば、感情的な対立と分断を克服できないのである。これは保育所建設で顕著である。
障害者施設との最大の違いは、地域住民が、施設の利用者である子どもについて「知っている」という点です。・・・多くの住民は・・・障害者について、知識としては理解していても、その実際を知らない・・・保育所の場合、利用者である「子ども」について知らない人はいません・・・そのため・・・子どもを反対の理由とするときには、その理由はより具体的なものになります。(本書30-31頁)
合意形成に成功した事例からは、時間をかけて両者の信頼を築き、理解を得るから相互に援助し合う関係性の構築の重要性が浮かびあがってくる。これまでの実施された、事前の説明会の実施や当該住民への補償、施設建設後の地域住民への働きかけ等を前提に、筆者は施設コンフリクトの解消に必要なことをいくつか挙げている。
仲介者(第三者)による介入を実施する。特に行政の介入が有効である。
当該地域の有力者を味方につける。例えば、自治会長や町内会長が該当する。
公正な手続きを実施する。手続きが公正かどうかの基準は、「事実性」と「配慮性」に基づく。
施設長や市長等がリーダーシップを発揮する。その際、障害者等の当事者も市民のひとりであるという理念のもと、地域に対して熱意をもって積極的に働きかけることが求められる。
そして、事例分析を踏まえて、施設コンフリクトは回避するものではなく、解消するという発想で対応することが重要であることを指摘し、施設コンフリクトが起こることを前提にコンフリクト・マネジメントを遂行することの重要性を上げ、その具体的方法としてリスクコミュニケーションを提示している。
本書は参考文献も充実しており、保育関係者にもぜひ読んでいただきたい文献である。
なお、本書の内容についてより深く学びたい方は、著者による『精神障害者施設におけるコンフリクト・マネジメントの手法と実践-地域住民との合意形成に向けて-』(明石書店)をお勧めする。
(紹介:鶴 宏史,2019年9月1日)
目次
まえがき
第1章 コンフリクトとはなにか
第2章 施設コンフリクト発生の動向
第3章 施設コンフリクトの構造とこれまでの対応
第4章 事例にみる合意形成のポイント
第5章 これからのコンフリクト・マネジメントのあり方
あとがき
参考文献