投稿日: Sep 18, 2016 5:8:9 PM
江戸しぐさなるものがあるらしいのですが。それが偽りのものであることを証明している。著者は偽史・偽書の専門家。「東日流外三郡誌」というある人が作った有名な偽書がありますが、その解明に当たったこともあるそうだ。
江戸時代からの伝来のマナーがあると言う人がいて、それを「江戸しぐさ」と呼んだらしい。例えば、「かさかしげ」なるものがあり、傘を差した同士が狭い道をすれ違うときに互いの傘を外側に傾けて、お互い濡れないようにするとか、「こぶしうかせ」なるものは複数の人が一緒に座るときに、皆が拳を両脇の机に当てて、腰を浮かせて、少しずつずらすことだそうだが。
コピーライターが面白がって作ったジョークのたぐいかと何となく私は思っていたら、けっこう「まじに」本当の話として提示されているものらしい。むろん、私が冗談みたいなものかと思ったのは、いかなる文献でも映画や小説(その頃の時代に忠実な)でも見たことがないだけでなく、江戸時代のことをちょっとでも知っていれば、あり得ないと分かるからですが。
そのことはこの本では丁寧に反論し、変なことばかりだと指摘しています。江戸時代に長いいすに座るなどの風習はない。すれ違うときなら、傘をすぼめるか、立ち止まる。そもそも庶民は滅多に傘など使わない。
本書によると、江戸しぐさは、1980年代から90年代に芝三光という人が作り出し、その弟子めいた人が広げたとあります。ちなみに、それを伝えた江戸っ子は明治維新に大勢が虐殺され、逃げ出したとか、ご冗談でしょ的お話も書いてあるらしい。
それを真に受けて、教育現場で授業の教材に使ったり、道徳の教科書にも載せたそうである(そういえば見たことがある気もするが、そんなマジな話しと思っていなかったので、見逃してしまった)。
向きになるほどのものでもない気がするが、血液型性格学とかEMとか「水の伝言」のように、それがけっこうまかり通る実例もあるからね。気をつけましょうね。江戸しぐさを本気で実在すると思ったことのある人は本書をお読み下さい。
(紹介:無藤 隆,2014年10月5日)