投稿日: Sep 18, 2016 5:14:26 PM
著者は小児科医。発達障害の臨床の専門家。 脳科学の現状をサーベイし、まだほとんど分かってないことを強調する。
例えば、
学習する血液増加部位が小さくなる傾向があり、血流が増えるような作業をしても、その部分のニューロン機能を高めることにつながるかどうかは分かっていない。fMRIで相対的な血液増加が見られないところにも、ちゃんと血液は流れ、ニューロンの活動はある。
脳機能イメージングは、自己意識が生じるメカニズムや、脳血流増加と学習の関係を解明するにはいまだに力不足であるが、神経科学の基礎や臨床に多くの示唆を与える情報を提供している。といって、それは脳機能が解明されたというのではなく、理解が一段進んだと言うべきである。
自閉症やアスペルガー症候群の症状には、脳内機能の低下という生物学的な根拠があることが、明らかになった。他の検査法では捉えようのない行動の特徴と、脳内の神経基盤の間に対応関係があることが示された。しかし、それは従来から推測できていたことであり、脳機能イメージング法は、そうした推測を可視的に確認することに役立ったと言うべきである。現在までに分かっている知見は、自閉症やアスペルガー症候群の脳内気候の「解明」、あるいはその原因の究明からはまだ程遠いものなのである。脳内過程の全貌の解明にはまだ道半ばというのが正直なところである。
評者の感想で言えば、楽観と悲観の交じったまとめに見える。10年後の解明を待つということなのか、10年後もしょせん無理だということなのか。この本の刊行から5年ほど経ったが、たぶん、まだ結論はあまり変わらないのだろう。ただ少なくとも、現状の知見を誇大宣伝することには十分警戒せよということは言える。
なお、このような意見は脳科学の先端の研究者ならたいてい同意するのではないか。マスメディアの前や研究費の申請の場でそう言うかどうかは別として。
(紹介:無藤 隆,2014年10月10日)