投稿日: Jan 01, 2017 7:14:51 AM
平成28年11月13日から一週間、ベトナムの大学、日本語学校、日系企業、幼稚園、子どものいる一般家庭の訪問をしてきました。今回の訪問は、筆者が所属している東京家政学院大学と家政学を接点とした交流の可能性を探ることが目的でした。従って保育・幼児教育ばかりを焦点にあてた調査ではありませんでしたが、その中でもベトナムの子どもや家庭の様子を窺い知ることができました。今回は11月19日(土)に訪問したハノイにお住まいの2家庭の様子をレポートいたします。
ベトナム北部の中心地であるハノイの町並みは、「3年前とはずいぶん変わった」と過去20回以上ベトナムを訪れている、今回の訪問に同行した教員が言っていました。その一つが、高層のショッピングセンターやマンションが多く建設されていること。今回訪問したのは、中心部から車で30分ほど離れた場所に住む2つのご家庭です。このご家庭は、どちらも写真のような高層マンションにお住まいです。ここは、スーパーマーケット、病院、学校、幼稚園が敷地内にあり、落ち着いた空間で、バイクが走り回るハノイ中心部とは違った様子でした。
写真1.ご訪問したご家庭のあるマンションと敷地内の公園
まず、1軒目はMs.Mong Da 宅です。ここは、今回のベトナム訪問でも通訳や視察先への交渉他でお世話になった三進インターナショナルの新妻東一氏のご家庭です。新妻氏は約20年前に渡越し、ベトナム人女性と結婚して3人のお子様に恵まれました。
【家族構成】
ご夫婦(ご主人は新妻東一氏、奥様はMong Daさん)と長女(Nhat Quynh ちゃん、9歳小学4年生)、長男(Nhat Haoくん、5歳幼稚園児)、次女(Nhat Vyちゃん、2歳)
お宅の玄関を開けると奥様とお子さんたちが快く迎えてくださいましたが、まず迷ったのが、「靴は脱ぐべきか?脱がないのか?」でした。実は、その数日前のホーチミンシティ師範大学の先生との話の中で「家では靴を脱ぐことが習慣であるが、中部など脱がない地域がある」と聞いていたからです。ご自宅は玄関の造りがなく、ドアからリビングに続く廊下までフラットになっていましたが、ここでは玄関ドア付近に靴を脱ぐことにしているとのことでした。
その後、早速お話を伺うことになりましたが、とっかかりの話題探しにお互いの自己紹介も兼ねて、自分の名前の由来やお子さんのお名前について伺いました。
【子どもの名前について】
3人の子どもにつけたミドルネームの“Nhat”は「日本」という意味だそうです。また、それぞれ、女の子の名前“Quynh”(注1)、“Vy”(注2)は花の名前からとっており、長男の名前である“Hao”は強くて温かいという意味であるとのこと。北部では、子どもの名前は祖父母が決めることが多いそうですが、奥様が名づけたとのことでした。ちなみに奥様の名前である、“Da”はベトナム中部の中国の近くにある川の名前からとったとのこと。学校では自分が名簿順で一番初めになることが多く、授業中によくあてられたので、自分の子どもは名簿順で真ん中くらいになるような配慮をしたとのことでした。
その後、奥様にとっての日本という国について、子どもの語学教育についてどのように考えているのか、といったことが話題になりました。
【日本との関わりと子どもの語学教育】
奥様は、日本には数回訪れたことがあるそうですが、子どもと一緒に街を歩くと、人々がみな親切で道路が整備されていて安全であったとのこと。日本や日本人、日本の景色にはとてもよい印象を持っているそうです。「まだ日本の紅葉を見たことがないのが残念」とおっしゃっていました。また、以前、記念に浴衣を着せてもらったことがあるそうなのですが、動きにくく窮屈だったそうです。写真撮影のために着たけれども「もう着たくない」とのことでした。(筆者の心の声:「わかります!」)
最近はベトナム人と日本人の夫婦が増えてきたそうですが、家庭の中では日本語ではなくベトナム語を使っている家庭が多いとのこと。このお宅ではご主人のお考えで、家庭の中ではベトナム語を使用し、長女は小学3年生から日本語の塾に通うようにしたそうです。日本語の塾では、今は、平仮名の書き取りが中心のようです。(日本語の塾のノートを見せてもらいましたが、日本の子どもと同じように「ぬ」と「な」がうまく書けず、何行も練習していました。)また、奥様も一時日本語を学んだそうですが、とても難しく、使う機会もあまりないので勉強しなくなってしまったそうです。長男は幼稚園に通いながら、英語塾にも通っているそうです。伺った日はちょうど英語塾の日で、シールをもらえて喜んでいた、とのことでした。
次に、今回の視察目的に少し近づけて家政学に関すること、特に食生活に関することが話題になりました。
【食生活と食に対する意識】
自宅のある高層マンション近くにスーパーなど日常生活に必要なものが買える店がそろっているので、徒歩で食材を購入していているそうです。安全かどうかは売っているお店や商品のブランドで判断しているとのこと。栄養のバランスやカロリー表示についてはよくわからないが、野菜は多く摂るように心がけているとのこと。また、最近は店に並ぶ野菜の種類が多くなってきたように感じるそうです(注3)。また、食事をするときには安全が第一と考えているので、最近は自宅のベランダでトマトなどの野菜を栽培して調理に使っているそうです。
その後、小学4年生である長女の使用している算数のノート、国語の教科書、連絡帳を見せてもらいました。
【使用されている教科書と家庭から見た小学校生活】
はじめに、算数のノートを見せてもらいましたが、きれいに青のペンで記入されているのに驚きました。小学校低学年は鉛筆を使用するのに対し、4年生になると学校の勉強にはペンを使用するのが一般的だそうです。「みんな、こんなにきれいに書いているの?」と尋ねると、「男の子はあまりきれいに書いてない」とのことでした。そして、よく見てみると4年生でxを使った数式の立て方や数式の展開を習っているようでした。
次に、国語の教科書を見せてもらいました。挿絵から内容を推察して尋ねたのですが、4年生になると昔話から現代生活に関するものまで幅広く題材にしています。しかし、低学年はベトナムに伝わる伝統的な昔話を題材にすることが中心であるとのことでした。また、教科書には内容の理解を問う問題文が随所にありました。
連絡帳も見せてもらいました。通常、ベトナムでは9月から新年度が開始となりますが、お嬢さんの通う私立小学校では、一般よりも早めに新年度が始まるとのこと。新年度第1日目の宿題は、クラスの係の中で何をやりたいのかを考えることでした。お譲さんは「勉強係をやりたい」という希望と「もし、私が勉強係になったら、みんなが勉強しやすくなるために、黒板をきれいにして環境を整えます。」と所信表明のような文章が書かれていました。毎日、連絡帳の内容を保護者が確認してサインするとのこと。このようなシステムは日本ととてもよく似ていますね。
写真2.小学校4年生の国語の教科書
写真3.連絡帳
次に、長女のお友達のお宅を紹介していただき、伺うことになりました。同じマンション内のMs.Huyen 宅です。
【家族構成】
ご夫婦(ご主人は旅行会社とテコンドー教室の経営、奥様はBui(注4) Thanh Huyenさん)と長女(Nguyen Tuong Viちゃん、6歳小学校1年生)、次女(Nguyen Tong An(注5)ちゃん、3歳幼稚園児)
長女は、ご主人の勧めでテコンドーを習っているそうです。テコンドーは最近人気があるとのこと。また、奥様は以前ご主人の会社に勤めていましたが、現在は病院の営業職に就いており夫婦共働き。毎日お手伝いの方が来て料理以外の家事をやってもらっているそうです。
お互いに自己紹介と名前の由来や意味について話した後、奥様が長女の小学校のPTA役員をされていることが分かり、小学校でのPTAの役割について話を聞いてみました。長女の通う小学校は公立小学校で、設立95年を迎えるというベトナムでは珍しい、長い歴史をもつ小学校とのことでした。
【ハノイにある公立小学校のPTAについて】
PTA役員の主な仕事は学校の行事の時に寄付を集めることだそうです。例えば、クリスマスや女の子のお祭りの日である3月8日(注6)、新年、11月20日の教師の日など、行事の度にクラスの保護者に寄付金を呼びかけて集金し、学校や先生にプレゼントを用意することが主な仕事。また、学校の遠足の準備を先生と一緒に行うこともしていて、これはとても大変な仕事だそうです。日本の小学校のPTA役員よりも仕事が多いように思いました。
1年生は1クラス56名でクラス役員は5名とのこと。公立は1クラスの人数はどこもこの程度であるのに対し、私立だと1クラスの人数は30~35名程度で比較的少人数だそうです。PTA役員を決めるときには、特にもめることはなかったけれど、共働きであるにもかかわらず「時間がある」という理由で奥様が選ばれたそうです。役員は皆熱心で都心の保護者の方がより熱心であると感じるそうです。
訪問させていただいたご家庭の皆さまには、楽しいひととき過ごさせていただいたこと、お忙しい中、初対面でしかも外国から来た私たちを快く迎えてくださったことに深く感謝いたします。
(執筆:中田 範子, 2016年12月14日)
注1. 「月見草」と似た花で夜に咲く花。女の子の名前によく使われる花。
注2. 日本では「ホウオウボク」と呼ばれる花。“Quynh”と同様に女の子の名前によく使われる花。
注3. お宅では、食の安全に対する意識があり、野菜の摂取を心がけているが、ベトナムではここ数年で急激に食の外部化や欧米型の食生活が広まっており、糖尿病や生活習慣病の増加、子どもの肥満等が問題になっている。また、学校や家庭での栄養教育が十分に行われていないことや、栄養学は医学・看護分野の一部とした学問体系にあり、家政学分野での栄養学、つまり日常の家庭生活における食生活の営みに関する教育が十分でないことが指摘されている。今回の大学視察の席でも、このことはたびたび話題にのぼった。
注4. “Bui”は奥様の旧姓である。ベトナムでは結婚後も改姓しないのが通例とのこと
注5. “An”は安心・安定という意味
注6. この日は北欧や旧社会主義国で行われている「国際女性デー」で、男性から女性に花や贈り物、あるいは家事を1日男性がやる日になっている。