投稿日: Dec 07, 2016 1:47:28 PM
柏木ハルコ 著
小学館
2015年(1・2巻)、2016年(3・4巻)
東京都東区の東部福祉事務所に配属された新人ケースワーカー・義経えみるの奮闘を描く、生活保護を題材にした漫画である。本書以前に生活保護を題材にした漫画には、『陽のあたる家』(秋田書店、2013年)がある。『陽の当たる家』が受給者の視点であるのに対して、本著はその視点がケースワーカーである(受給者の視点や心情描写もある)。
えみるは、生活に困窮する人々の支援の難しさに直面し、悩み、時には失敗や努力が徒労に終わることもありながらも、ケースワーカーとしてきちんと相手に向き合い、支援したいと感じ、日々奮闘している。さらに、同僚のケースワーカーたちのキャラクターもしっかりと描かれており、様々な考えやバックボーンをもつケースワーカーの視点で、生活保護を捉えることができる。
個人的に印象に残っているのは、不正受給を取り扱った「不正受給編」(2巻~3巻)である。日下部さとみは、認知症の父を介護しながら、中学生と高校生の子どもを2人育てている。高校生の息子・欣也は、さとみに内緒で、回転寿司屋でアルバイトしていたが、福祉事務所に申告してなかったため、不正受給と判断され、これまで稼いだアルバイト代に相当する額を返還せざるを得ない状況になった(生活保護法第78条に基づく)。
えみるの説明に対して、欣也は「やっぱ・・・どうしても納得いかなんスけど・・・オレはそんなに悪いことをしたんですか?・・・教えて欲しいんスけどマジで」と憤りをぶつける。えみるは、生活保護を受けている以上自分で稼いだであっても黙って使ったら悪いことである、日下部家の生活費は国民の税金である以上、納税している市民感情もあると伝えてしまう。結果、欣也は自分の心の支えであったギターを叩き割り、うちを飛び出してしまう。その後のえみると、えみるの指導係の半田とのやりとりである。
半 田:「これは税金なんだから」という言い方をした瞬間に関係が壊れる・・・よくあることです
えみる:そういうモンでしょうか・・・。
半 田:もちろん指導指示で理解を得られない時、そういう言い方をしなければならない時はあります。ですが、生活保護を受ける多くの人はすでに引け目を感じていますからね・・・ましてや高校生の彼からしたら、「ウチが生活保護なのはオレのせいじゃない」、そう思うでしょう・・・。
後日、高校生にも理解できる生活保護の制度を説明し、憤りや不条理を感じている欣也との関係を築こうと考え、面接に臨み、返還することとなった。
ケースワーカーという仕事を知るには手ごろな漫画であり、また、生活保護に関わる法律もしっかりと触れているので、「社会福祉」などの科目の資料としても使用できるのではないかと考えている。
(紹介:鶴 宏史 2016年12月)