投稿日: Jun 25, 2018 2:50:58 AM
本書は、子どもがどのようなところで困難を抱え(人権を侵害され)、何をすれば子どもたちの支えになるのか、そして、それをどのように法体系と結びつけるのかに言及したものである。構成としては、序章において子どもの権利に関する基本的な理論と体系を押さえた上で、家庭に関わる人権侵害(虐待、貧困、待機児童問題、離婚・再婚等)、学校における人権侵害(指導死、不登校、体育・部活等)、マイノリティの人権侵害(障害、LGBT等)について、その現状と取り組みや解決について論じている。最後に終章において、これらの総括を行っている。
保育に直接関係するのは、虐待、貧困、待機児童問題であるが、ここでは離婚について取り上げる。家庭に変化が起こる点で子どもにとって重大なことであり、保育をする上でも直接・間接的に関係すると考えるためである。離婚における子どもの抱える困難(権利侵害)について、筆者は3点上げている。
まず、大人が勝手に物事を決めることである。離婚に際して、夫婦は両者で話をすすめ、離婚に至ることが多い。
「親は『離婚は大人同士の問題だから、子どもには関係ない』と思っているのですが、子どもにとってはこれまでの生活が180度ひっくり返る、大変大きな出来事です。誰よりも影響をうけるのは子どもである自分なのに、なぜ何の説明もなく話を進めてしまうのか?納得がいかない、という声を聞きます・・・離婚に伴う生活の変化に関して、もっと子どもの意見を聞いてほしかった、という声もよく聞きます(本書、116-117頁)
また、親が嘘をついたり、真実を伝えなかったりすることもある。
子どもにとっては、離婚についての真実を知り、子どもの自身の意思を尊重される権利が侵害されている状態である。つまり、子どもの意見を表明する権利(子どもの権利条約第12条)や子どもの知る権利(同条約第13条)が尊重されていない状況である。
次に、養育費が支払われないことである。周知のように日本では、離別親の養育費の支払い率が著しく低い。子どもの権利条約では、「締約国は、父母又は児童について金銭上の責任を有する他の者から、児童の扶養料を自国内で及び外国から、回収することを確保するためのすべての適当な措置をとる。特に、児童について金銭上の責任を有する者が児童と異なる国に居住している場合には、締約国は、国際協定への加入又は国際協定の締結及び他の適当な取決めの作成を促進する」(第27条4項)とあり、養育費の受け取りは子どもにとって権利である。
養育費の支払い率が低い理由について、筆者は、養育費を受け取ることは子どもの権利であるにもかかわらず、①離別親に親としての自覚がない、②同居親も離別親と早く離縁したいために養育費を主張しない、③制度上の問題(養育費の取り決めが義務付けられていない、公的機関による代替徴収の仕組みがない等)の3点を挙げている。③については、条約を踏まえた制度が整っていない状況がある。
子どもにとって、離れて暮らす親と接することも、権利の1つである。子どもの権利条約では、「締約国は、児童の最善の利益に反する場合を除くほか、父母の一方又は双方から分離されている児童が定期的に父母のいずれとも人的な関係及び直接の接触を維持する権利を尊重する」(第9条3項)と定めており、親との交流を子どもの基本的な権利として定めている。しかし、日本では「面会交流は、離別親の権利と思われがちです。もちろん離別親にも子どもに会う権利はあるでしょうが、面会交流は何よりもまず、子どもにとっての権利です。そのことを日本では、離別親も同居親も忘れがちなようです」(本書、122頁)という現状がある。
「子どもには人権があり、それを尊重しなければならない」ことをよく耳にするが、実際のところ子どもの権利はどれほど保障されているのだろうか。子どもの権利の実現のために必要なこととして、編者の木村草太氏は、権利が侵害されている子どもが何に困っているかを適切に理解すること、重層的で開放的な支援の仕組みづくり、子どもの意見表明権の尊重、資金と資源を挙げている(本書、341頁)。我々には何ができるだろうか、子どもの人権を考えたり、学んだりする上で有用な貴重な文献である。
(紹介:鶴 宏史、2018年5月31日)
目次
序章 子どもの権利-理論と体系
【第1部 家庭】
第1章 虐待─乗り越えるべき四つの困難
第2章 貧困─子どもの権利から問う、子どもの貧困
第3章 保育─待機児童問題は大きな人権侵害
第4章 10代の居場所──「困っている子ども」が安心できる場を
第5章 障害─障害をもつ子どもへの暴力を防ぐために
第6章 離婚・再婚─子どもの権利を保障するために親が考えるべきこと
【第2部 学校】
第7章 体育・部活動─リスクとしての教育
第8章 指導死─学校における最大の人権侵害
第9章 不登校─再登校よりも自立の支援を
第10章 道徳教育─「道徳の教科化」がはらむ問題と可能性
第11章 保健室─学校で唯一評価と無縁の避難所
第12章 学校の全体主義─比較社会学の方法から
【第3部 法律・制度】
第13章 児童相談所・子どもの代理人─子どもの意見表明権を保障する
第14章 里親制度─子どもの最善の利益を考えた運用
第15章 LGBT─多様な性を誰も教えてくれない
第16章 世界の子ども─身体の自由、教育への権利、性と生殖に関する健康
終章 子どもの権利を考える─現場の声と法制度をつなぐために