投稿日: Sep 19, 2016 2:35:24 PM
第1回にご紹介したオハイオ大学附属保育学校子ども発達センター(CDC)について引き続きご紹介します。センターという名称がつかわれていますが、総合的に子どもを捉える保育学校(教育を行う0~5才の子どもが通う施設)という言葉の方が近いかもしれません。
基本的に1年じゅう開いています。ただし大学附属のセンターですから大学が休みになる休日はお休みになります。例えば、
Veteran's Day 退役軍人の日
Thanksgiving and the day after 感謝祭とその翌日
Martin Luther King Day マーティン・ルーサー・キング牧師の日
Memorial Day 追悼の日
4th of July 独立記念日
Labor Day 勤労者の日
はお休みです。また、大学の秋・冬・夏学期の間にあるお休み(それぞれ1週間程度)とクリスマスから年末の2週間の冬休みがあります。日本のように行事を中心に保育を組むという発想はありません。日本と共通しているのは、このセンター特有の条件である自然豊かなロケーションを生かして、季節を意識した遊びが常に営まれていることです。クラスの子どもたちの家庭のお祝いごとをクラスで楽しむ習慣があり、家庭とのつながりで季節ごとのイベントが自然に組み込まれています。
2才以上のクラスの1日の大まかなスケジュールです。
このセンターに通っている子どもたちは、地域の子ども、大学の教職員の子どもの 両方がいます。
アセンズは、アパラチア山脈の中にあり、センターはThe Ridge―山の尾根と呼ばれる、元は農業・畜産業の施設だったレンガ造りの建物を改装して作られています。アセンズ全体がそうなのですが、敷地の外も自然豊かな場所です。
駐車場側から見たCDC。尾根の中腹にあります。
上の方には理系学部の研究施設や、大学管理施設等の
建物があちこちに散らばっています。
外遊びのエリアは、フェンスで囲まれています。
敷地の外も大切な環境の一部です。レッジョでは、「環境は第3の教師(各クラスに2名ずつ教員がいるので)」と呼んでいます。ドルトン・プランで「シティ・アズ・ア・クラスルーム(街を学校として)」と町中を教育資源と考えますが、アセンズでは街ではなく森もクラスルームです。
日常的にクラスやグループ単位で森の中に出かけていきます。「自然」をテーマにしたプロジェクトでは、子どもたちがどのようにセンターの周りの自然と出会い、関わり、何を発見していき、それをどのように表現したかが半年近くに渡って記録され、保護者と共有されていました。いわゆるレッジョ・エミリアのドキュメンテーションです。右の写真は、自然を取り入れたカリキュラム、プロジェクトの大きな概念的なとらえを表しています。
ドキュメンテーションとして毎日の子どもの言葉や作品、先生とのやりとり、子どもどうしのやりとりを記録したものが、誰でも見られるようにクリアファイルに入れて部屋の入り口に置いてあります。過去のものは、玄関の待合室にいつでも閲覧できるように置いてあります。乳児の時から今までの自分の子どもの経験と成長を追いかけることもできます。
このセンターに通っている子どもたちは、地域の子ども、大学の教職員の子どもの両方がいます。この施設のセンター長や副センター長は修士号を持ち、オハイオ大学の授業も担当しています。教員はどの年齢を担当する人もマスター・ティーチャーと呼ばれる恒久的な教員資格がある先生(3才~3年生の教員免許取得、3才未満は別に認定制度がある)ばかりです。その人たちの多くは修士号取得者あるいは大学院に在学中です。
加えて、このセンターは実習受け入れ校としての責務がミッションとして掲げられており、毎学期60人程度の学生が実習生(観察・参加実習 週1~2回)として勤務します。実習生を受け入れて指導する負担は相当なものですが、学生・実習生たちのおかげで3才以上の1クラスに4人以上の大人がつくことができます。乳児クラスも人員配置を手厚くできます。こうしたマンパワーが、この園のリソースにもなっています。
この継続的な現場とのかかわりが、大学の授業の構成にも生かされます。例えば、週1~2回定期的に何週間も通うので、子どもの変化を観察する課題を授業に組み込んでいけます。子どもとの関係を築きながら観察できるので、詳細な行動観察記録をとる訓練になります。また、同じクラスに何人もの学生が交代で入るので、互いの観察を授業で比較して振り返ることができます。
3年生になると、子どもの興味に合わせて学生が小グループでの活動を計画します。配属クラスのマスター・ティーチャーや授業担当の教員と相談しながら指導計画を固めます。そのプロジェクトも1回きりではなくて、小グループでの小さなプロジェクトを子どもと一緒に行い、その様子をドキュメンテーションにまとめ、大学のクラスに持って帰って発表するといった活動をしていました。また、そのドキュメンテーションをCDCに持って帰って保護者にも共有します。
実習生が行っているとはいえ、子どもたちの大切な学びの過程ですから保護者に知らせるべきだと考えています。 個々の学生について早急に解決するべき課題が見つかった場合は、授業担当者やアドバイザーにすぐに連絡があり、解決策を一緒に考えていきます。同時に、センターの先生たちが大学院の授業を受けに来ます。自分の行っている実践を修士課程の大学院生として論文にまとめて行くことで、実践を見直すことができます。理論・研究のエビデンスと日々の実践をつなげる作業は、先生方を更に成長させる機会になります。
教室で子どもたちが何に興味を持っているか、先生たちは常に注意を払い、記録し、教室でおきていることをニュースレターとして、クラスに配信します。送迎の時にゆっくり読んでいる時間がないことが多いからです。個別に伝えるべきことは、送迎の時に話をしているようです。
ほとんどの保護者は子どもを送ってくると、しばらく部屋で過ごしてから立ち去ります。家庭からCDCへとゆっくり子どもが気持ちを切り替えていくことができる良さがあります。もちろん急いで子どもを先生や他の保護者に頼んで立ち去っていく必要がある保護者もいますが、固まって通園してこないのでゆったりとした雰囲気が保たれています。
廊下に掲示してある「探究Inquiry」に関するセンターの考え方を訳しました。子どもだけでなく教師を含めた探究の過程として紹介されています。
専門家集団として、学会・研究会との関わりこのセンターの先生たちは、実践研究を学会や研究会で発表し、他の園と共有していくことが
求められています。NAEYC(National Association of Education for Young Children 全米保育学会)の下には各州の組織があり、先生方は毎年全国大会と州大会で参加・発表していました。
また、地域に向けての保育公開や、研究会の会場提供も行っていました。これは、センター長・副センター長の熱意と努力も大きいと感じています。大学の付属だから、それなりのプレッシャーもありますが、先生たちは逆に他よりもチャンスが多いのだからと考えていたように思います。
~子どもの姿に行きつく前に、こんなに長くなってしまいました。第3回目に、子どもの姿をお話しします~
(2015年8月1日 / 内田 千春)