投稿日: Jan 06, 2018 1:51:36 PM
アーナ・ボンタン & ジャック・コンロイ 文
バージニア・リー・バートン 絵
ふしみ みさを 訳
岩波書店
2004年 9月22日
今年の干支にちなむ絵本。疾走する蒸気機関車を悠々と追い抜いていく韋駄天犬ビュンビュン(原文ではSOONER)のお話。機関車火夫(石炭をくべる乗員)ゴウゴウ(原文ではBOOMER)は、飼い犬を同乗させることを許さない駅長さんと賭けをします。蒸気機関車とこの犬と、どちらが早く駅に着けるか。もし犬が勝ったりすれば、鉄道の評判はがた落ちですが・・・・さて。
アメリカで出版されたのは1942(S17)年、作者のボンタン(1902-1973)はルイジアナ州出身のアフリカ系アメリカ人で、黒人文化を継承することに一生を捧げた文学者。共作のコンロイ(1899-1990)はミズーリ州出身のアイルランド系アメリカ人で、詩や小説を書き雑誌などの編集にも携わった作家。二人は友人。
二人ともアメリカ社会ではマイノリティー(少数者)で、当時はまだ差別が厳しい時代でした。犬と機関車、火夫と駅長、として弱者と強者を象徴的に描きながら、前者の内に秘められた生命力を痛快に表現したものと言えます。
絵は、一目見れば「小さなおうち」「名馬キャリコ」を描いたV.L.バートン(1909-1968)によるものであることが分かります。彼女がA.ボンタンの児童小説「悲しい顔の少年」(1937)の挿絵を依頼されたのが縁で、その5年後に出来上がったのがこの絵本です。彼女の全作品に見られる弱者へ向ける視点が、生涯追い続けた主題として流れています。
ダンサーとして身を立てることも考えていたバートンの、躍動感溢れた絵が何より効果を高めています。
(紹介:清流祐昭, 2018年1月7日)