投稿日: Sep 19, 2016 5:38:30 AM
アスペルガーの成人が結婚し、夫婦として生活していく様子を描いたノンフィクション。実は当人である「妻」の側が夫の立場となって述べている。アスペルガーの人がどんな具合に生きているか、何に困るのかがよく分かります。
一般に、アスペルガーの成人が無事に結婚し、しかも長く続いていることはあまり多くないのではないかと思いますが、10年も結婚し、よく喧嘩するようですが、でも仲良くやっているのです。もっとも仕事はうまく出来ず、インターネットを使うことで生活し、仕事をしているようです。
ですが、この本が面白いのは、そういったことが参考になるということを越えて、文章がユーモアに富み、素敵なのです。これだけ分析し、具体的に記述しつつ、突き放しても見られ、ユーモアを計算できるのは、著者はよほど言語能力に優れているのでしょう。でも、確かにアスペルガーでしかも算数障害があることは本書に縷々記されています。
おそらく、かなりの才能に恵まれている人で、しかも家庭での親の対応がよかったのでしょう。配偶者との出会いも奇跡のように思えます。当人の工夫と努力もすごいものです。でも、学校でも職場でも辛い目に会い続け、結婚生活も最初の数年はなかなかうまくいかず、アル中となり、ついに入院し、そこでアスペルガーの診断を受け、それから猛勉強をして、その実態を調べ、可能な手だてを次々に講じていきます。夫も出来る限り許容していくのです。多くの美点を見出すあたりも感動的です。でも、ときに耐えられなくなり、喧嘩が起こります。でも、「出て行け」と怒鳴ると、本当に出ていきそうになり、どこに行くかと尋ねると、河原で寝ると真面目に答えるあたりが、おかしくもあり、悲しくも感じられます。
でも、文章は本当に上手です。相当のプロレベルです。自分の悲惨さを語りつつ、これだけの楽しさと明るさを醸し出せるのがすごいことです。
なお、この続きが「エイリアンの地球ライフ」です。いつだったか、紹介しました。
(無藤 隆 / 2015年2月26日)