投稿日: Jan 01, 2017 7:15:20 AM
11月18日(金)には、ハノイの住宅街にある公立幼稚園、リンダム幼稚園を訪問しました。ここは、今年3月にも一度訪問していますので、その時に伺った内容も一部含めてお伝えします。
【訪問先】リンダム幼稚園 Trường Mầm Non Thực Hành Linh Đàm
住所:Khu đô thị Linh Đàm - Quận Hoàng Mai - Hà Nội
まずは、自己紹介と園側から園の基本的な情報についてご説明がありました。
【基本的情報】
公立の幼稚園であり、保育者養成校の附属園(「実習幼稚園」との表現であった)であるため、モデル的かつ試験的な保育を行っている。実習生の受け入れも常に行っている。カリキュラムはナショナルカリキュラムに則りながら、独自のものを作成している。
1. 幼稚園の組織図(人員構成)
園長1名、副園長2名、教諭50名 、事務職員・用務員等教諭以外の職員35名
2. 各クラス定員、クラス数、保育者の人数
3歳児以下クラス:18-24ヶ月児1クラス、24-36ヶ月児1クラス、合計70名
クラス担任各4名
3~4歳児クラス:全3クラス 定員各55名 合計165名
クラス担任各3名
4~5歳児クラス:全5クラス 定員各65名 合計325名
クラス担任各3名
5~6歳児クラス:全4クラス 定員各65名 合計260名
クラス担任各3名
3. 学年ごとの1日のスケジュール
以下のスケジュールは、国の規定通りのスケジュールになっている。学年が異なっても基本的に同様のスケジュールである。
表. 1日のスケジュール
その後、話題は保育者養成に関することになりました。
【保育者養成について】
1. 大学在学中に行う教育実習の実施学年、期間等について
ベトナムでは、中等師範学校の学習期間は2年間で、教育実習は2年生で3ヶ月間行うことと定められている。教育実習中は無給である。
2. リンダム幼稚園での保育者養成
中等師範学校、短期大学、大学で保育を学んだ者で、リンダム幼稚園に就職を希望する場合は、幼稚園に就職後1年間の試用期間があり、その場合給与は全額支払われるが、1年を経て、継続して当リンダム幼稚園の保育者として働く場合には幼稚園側の審査を経て、合格した者だけが、引き続き仕事を継続して働くことができる。リンダム幼稚園は実習幼稚園ということもあり、子どもへの保育のみならず後進の育成という役割があるので、他の幼稚園にないシステムが存在している。トレーニング内容としてはほぼ教師と同様の仕事内容であるが、後進を教育できる資質をもった者が選ばれる。本園では国の定めた教育方針に基づき教員を養成することも役割の1つである。
3. 保育内容
子どもの年齢に応じた保育を行っているが、国の内外の優れた保育方法も取り入れている。例えば、モンテッソーリ教育は最近試験的に導入した。なお、各学年には「モンテッソーリクラス」と「普通クラス」があり、「モンテッソーリクラス」は保育料を別途徴収して運営しているとのこと。
次に、筆者が事前に付け焼刃的に勉強したベトナムの幼児教育について先生方に質問をし、意見交換をしました。
【ベトナムと日本の幼児教育に関する意見交換をした中で得られた情報】
Q1.「ベトナム教育法」を読むと、日本と共通しているのは、子どもの遊びを重視し、遊びを通した保育を行うことを中心としている点である(注1)。日本の場合は、子どもの遊びが重要としながらも、実際には保護者のニーズとずれるケースもあるが、園ではこのようなことはないか?
A.本園でも保護者からの要望で、音楽、芸術、スポーツ等の専門の先生を招いて保育している。保護者のニーズと保育者として大切にしていることの歩み寄りを心がけているが、課題が多い。
Q2.「ベトナム教育法」に「審美眼を発達させる」(注2)という文言があり、とても興味深く思えた。実際に園では、子どもの審美眼をどのように育てているのか。
A. 特に芸術的な内容に焦点を当てているわけではない。芸術も体育的な能力も含めて全面的な発達を目指している。それから、運動能力を特に強調しているわけではないが、運動能力の向上の前提となる、健康を保つための基礎を身につけることを重視している。
Q3. 保育者にとって、大切なことは何だと思いますか。
A. 第一に、子どもが好きであること、専門的な能力、園のルールに従うこと、道徳心、コミュニケーション能力(保護者など様々な人と関わるので)
日本にもベトナムにも様々な園がありますが、リンダム幼稚園の先生方や同席された元教育訓練省(日本の文部科学省)職員の方のお話の内容一つひとつに共感しました。もちろん、得られた回答がベトナムのすべての幼稚園に当てはまるこということはないでしょう。現在は南北再統一をして何年も経っているものの、いまだに情報の流れは南と北では違いがあると聞きます。
また、本園を「実習幼稚園」と表現されていたように、子どもへの保育と保育者養成の両方に力を入れている点にも興味を持ちました。失礼ながら、対応してくださった園長先生、副園長先生2名の学歴をお聞きしたところ、3名ともハノイ師範大学のご出身とのこと。ベトナムの中でも特に優秀な先生方のいる幼稚園であることが推察されました。
そして、意見交換の中で度々、先生方が「先進国である日本から幼児教育を学びたい」とおっしゃっていました。この言葉を聞いてうれしく思う反面、正直言って戸惑いもありました。幼児教育は、その国、その地域の文化や風土、そこに暮らす人々の思いや願いによって生成されるもの。ベトナムには他国の影響を受けて苦労の多かった歴史がありますが、私は滞在中に、日本にはないベトナムの人々の逞しさと純粋さを大いに感じました。また、リンダム幼稚園の先生方のお話から、日本もベトナムから学ぶことが多いと感じました。特に、保育者養成校では、連続して3ヶ月もの実習を行っている点、そして、リンダム幼稚園のような「実習幼稚園」の存在です。
このような対話を通して、今後も交流を続けて行くことを約束することができました。
その後、保育の様子を見せていただきました。ベトナムでは11月20日は「教師の日」(注3)で、この日は幼稚園から大学に至るまで、先生が子どもや卒業生、保護者から感謝される日だそうです。私たちが訪問したのはその前々日の18日(金)だったのですが、翌日の土曜日には先生に会えないからなのでしょうか、きれいなバラの花束をもらっていた先生がいました。訪問した私たちも子どもたちから手作りのカードをいただきました。
(筆者の心の声:「日本にも『教師の日』を作ろう!」)
次に、午睡の後の保育の1コマをご紹介します。
写真1. 3~4歳児のモンテッソーリクラス
写真2. 3~4歳児の普通クラス
写真2の子どもたちは、ブロックで生き物を作っているのです。筆者が「写真、撮ってもいい?」と尋ねると「いいよ!」と快諾。(その前に、隣にいた男の子たちのグループからは拒否されてしまいました(涙)。)次に「一緒に生き物を作らせて」と仲間に入ることを頼むと、これも快諾してくれました。その後、生き物の背がどんどん伸びてとうとう首がぐにゃりと曲がってしまったのです・・。
後日、通訳の方を通じてこの時にお会いした元教育訓練省職員の方から以下のようなコメントをいただきました。
「ベトナムの問題点は、幼児教育の目標は定まっているものの、その方法論や理論面で遅れが目立っており、その反動で海外のものだったら皆よいものと、無批判に海外のもの、特に英米の教育方法を取り入れているケースが多い。これがベトナムの現状である。」
さすがに自国の現状と課題をよく把握していらっしゃると思ったと同時に、幼児教育がこれから発展、あるいは変ろうしている時においては、理論面をしっかり整えることが重要であることをあらためて考えさせられました。
(執筆:中田 範子, 2016年12月14日)
注1.「ベトナム教育法」第2章国民教育システム 第1節就学前教育 第20条就学前教育に求められる内容と方法
注2. 同上 第19条就学前教育の目標
注3. 1949年7月にフランスで発足した「世界教育者組合連合」の記念日が由来であり、1982年にベトナム政府は正式に11月20日を「ベトナム教師の日」と定めた。