投稿日: Jan 17, 2017 2:18:1 AM
長谷川摂子 作
降矢奈々 絵
福音館書店
1985年8月1日「こどものとも」発行
子どものとも傑作集 1990年3月15日 第1刷
わたしはこの絵本を繰り返し、繰り返し子どもたちに読んできた。
遊ぶ友だちが誰もいないと、かんたはめちゃくちゃなうたをうたう。すると、ふしぎな世界へ。そこで“おたからまんちん”“もんもんびゃっこ”“しっかっかもっかか”というばけものと遊ぶことになる。最後はちゃんともといた場所へもどってくる。まさに行きて帰りし物語。
この絵本は子どもたちをお話の中に簡単に招き入れる不思議な力がある。
年中の担任をしていたとき、読み終わるとホッとしたように、ふっと息をはきながら「あーおもしろかった」と言ったゆかちゃんの表情が忘れられない。きっとかんたと一緒に不思議な世界へ行っていて、ちゃんと現実にもどってきて思わず出た言葉なのではないかと思う。
作者の長谷川摂子さんが、ご自分の子どもとくちずさんでいたというふしぎなうた
ちんぷく まんぷく あっぺらこの きんぴらこ じょんがら ぴこたこ めっきらもっきら どおんどん
これをいつもわたしは、その日の気分で好きにうたっていた。どんな節をつけてうたうのか、いつか長谷川摂子さんに聞いてみたいと思っていた。
小さな絵本美術館の絵本セミナーで、いつものようにお手伝いをしていた私は、講師だった長谷川さんの接待を頼まれた(いや、頼まれてもいないのに自らそばにいたという方が正しいかも!)このときとばかりに気になっていたことをお聞きしてみた。
長谷川さんは「みんなに聞かれるのだけれど、好きにうたってもらっていいのよ」とにっこり。子どもと読み手の関係が大事なのだと言われたように思う。
講演が終わったあと、絵本セミナーの主催者さとうわきこさん(「ばばばあちゃん」の作者)の自宅で秋の穏やかな昼下がり、太陽の光が優しく入る部屋で、長谷川さんと二人の宝物のような時間を過ごしたことがある。わたしは時々、その場面をその光とともに思い出す。
「保育」に悩んでいたわたしは、長谷川さんに自分の思いをたぶん、涙をためながら、一生懸命語っていた記憶がある。長谷川さんは、なぜか楽しそうに話を聞いてくださって、新品の「めっきらもっきら どおんどん」の絵本に「子どもたちがいるから 楽しいのよね」と言葉を残してくれた。
「めっきらもっきら どおんどん」の魅力はそこにまさに「子ども」が描かれているからだとわたしは思う。遊ばないと言われると大声で泣き、遊んでやると言われると、自分が一番とけんかがはじまる。あせびっしょりになって遊び、大人からみたらつまらないものを大事にし、おなかがすいたら食べ、おなかがいっぱいになったら眠くなる。子どもではないおたからまんちんたちの姿として描いているのだけれど、でも、そんなあたりまえの子どもの子どもたちの姿を愛おしいと感じている、長谷川さんの優しい眼差しがみえる。
それから、この絵本のもうひとつの魅力は降矢奈々さんの絵にあると思う。なんとこの絵本は降矢さんのはじめての絵本の挿絵だという。わたしは、この表紙のちぎり絵と思われるちょっと怖い感じがまた、子どもたちにとって魅力があるのだと感じている。
これから出会う子どもたちは、どんな表情でこの絵本を見つめてくれるのだろう?と楽しみにしながら、また繰り返し、繰り返し子どもたちに読んでいきたいと思う。
(紹介:安井素子, 2016年11月1日)
長谷川 摂子(はせがわ せつこ、1944年2月8日 - 2011年10月18日)
東京大学大学院哲学科中退後、公立保育園で保母として6年間勤務した。絵本に「クリスマスのふしぎな はこ(福音館書店)」「きょだいな きょだいな(福音館書店)」「おっきょちゃんとかっぱ(福音館書店)」「きつねにょうぼう(福音館書店)」、評論に「子どもたちと絵本(福音館書店)」「絵本が目をさますとき(福音館書店)」などがある。1999年、『きつねにょうぼう』(再話)で第4回日本絵本賞大賞、2004年、『人形の旅立ち』で第19回坪田譲治文学賞、第14回椋鳩十児童文学賞、第34回赤い鳥文学賞を受賞した。
降矢奈々(ふりやなな1961年、東京に生まれる)
1992年からチェコスロバキアのブラチスラバ美術大学で版画を学ぶ。ドゥシャン・カーライ教授に師事。当地でスロバキア人の画家ペテル・ウフナール(Peter Uchnar)と結婚し、スロバキアに暮らす。絵本に内田麟太郎『ともだちや』降矢なな(画) 偕成社(おれたちともだちシリーズ)、富安 陽子『まゆとおに―やまんばのむすめ まゆのおはなし』 降矢なな (画) 福音館書店、『ちょろりんのすてきなセーター』 (福音館書店) などがある。