投稿日: Jan 27, 2017 12:29:44 AM
本書は、イタリア全土の多くの保育施設に取り入れられている、アガッツィ思想を概観し、その思想に基づいた実践例として、「ガラクタ博物館」や「花壇づくり」等が紹介されています。
アガッツィ思想とは、1895年に北イタリアのモンピアーノでフレーベル主義を刷新し、新しい幼児教育法を編み出したアガッツィ姉妹(AGAZZI,Rosa&Carolina.Rosa.1866-1951,Carolina.1870-1945)による思想です。子どもを「遊びを通して他者への敬意や親切さ、正直さといった市民的な要素を身につけていく存在」としています。そのため、子どもの目線で世界を見ることを重視しており、それが具現化されたものが「ガラクタ博物館」と言えるでしょう。「ガラクタ博物館」について、本書では以下のように説明しています。
子どもの興味と関心に基づいた(教育)材料を展示している博物館である。そこに並べられている展示物は、間違いなく子どもの気持ちに寄り添ったものである。アガッツィ幼稚園の教師は、子どものあるがままの気持ちと子どもの差し出したものとを同時に受け取り、展示し、教育材料としていく。いわば、「博物館ではない博物館」である。子どもたちが選んでもってきたものは、子どもにとって生きているものであり、子どもを生き生きとさせるものである。教師は、子どもたちが持ってきたものを通して子どもの内的・精神的な成長を促し、子どもの成長発達を活性化させることができる。物を通してこころの教育へ向かうプロセスがここにある。
ガラクタ博物館のはじまりは、保育者と子どもの日常のかかわりがきっかけであったと言います。当時のイタリアはまだ貧しく生活環境が整っていないことから、保育者は子どもたちに対して衛生面の点検を行っていたそうです。ある子どもがポケットに陶器のかけらを入れていたのを保育者が見つけ、思わず「ポケットの中に入れているものをみせてごらん」と声をかけました。この時に、その子どもはおずおずとポケットの中に入っているものを差し出し「こんなにきれいなものなのに・・」とつぶやいたそうです。子どもは「先生に取られてしまうんじゃないか」といった不安な表情を浮かべていましたが、差し出した陶器のかけらを保育者が返したとたんに笑顔になったそうです。
このエピソードがきっかけとなって、陶器のかけらのように、大人にとってはガラクタであっても子どもにとっては宝物になりえることから、子どもたちが見つけたあらゆるものを子どもとともに揃え、並べ、長さを測り、色の違いや素材の感触を確かめるようになり、これが高じてガラクタ博物館となったそうです。
保育者は、日常の中で子どもたちから様々なものを受け取ることがよくありますが、こうしたガラクタ博物館の実践を通して、子どもが見つけたものとともにその気持ちを共に受け取るようになり、さらにそれが「ガラクタ博物館教授法」という保育方法として体系化されているのが興味深いところです。
ガラクタ博物館の実践例から時空を超えて、今思うことは、保育者はいつの時代でもどの地域・国に至っても、その取り巻く状況や課題に違いがあるものの、子ども達から学ぶことは大きい、ということです。私にとって本書は、このような思いを新たにした一冊です。
(紹介:中田 範子,2017年3月28日)
目次
第1章 アガッツィ思想の理想の子ども観
第2章 アガッツィ思想の理想の教師像
第3章 母性と道徳
第4章 アガッツィ思想にみられるエコ教育
第5章 アガッツィ思想における<自然><大地><いのち>
第6章 子どもの望みに応える教師を目指して