ここでは,海外の発達心理学研究のレビュー(ハンドブック)である"The Oxford Handbook of Developmental Psychology"のVol.2を取り上げます。本書のうち、「発達研究勉強会」で取り上げた章についてご紹介いたします。(すべての章をカバーしておりませんので、あらかじめご了承ください。)
各原稿は、「発達研究勉強会」において、毎月担当者が発表したレジュメを元に、保育Labの研究情報担当の白川佳子と伊藤理絵が要約および編集したものです。要約の最後に、レジュメを担当なさった方のお名前と発表実施日を記載しております。
「発達研究勉強会」について
白梅学園大学大学院博士課程・後期授業『保育実践研究演習』(平成25年度後期) が前身となったもので、海外の発達心理学研究について知識を深めると同時に、ディスカッションを通して学び合う勉強会です。白梅学園大学の無藤隆先生に本研究会のアドバイザーをお願いしております。
第2章 パーソナリティと情動の発達 - Personality and Emotional Development (Nathan A. Fox, Bethany C. Reeb-Sutherland, & Kathryn A. Degnan)
近年、神経科学を抜きに発達心理学を語れなくなっており、特に情動研究については、医学、脳神経科学、生理学等に関する研究とともに急速な進展がみられています。本章では、情動発達研究について、従来、行動科学で研究されてきた恐怖と報酬に関する条件付けの知見を神経科学的に考察しています。・・・(続きを読む)
第5章 道徳性の発達:認知神経科学的アプローチ - The Developing Moralities: A Cognitive Neuroscience Approach (R. J. Blair)
これまで神経科学の領域ではあまり扱われてこなかった道徳性の問題について、近年、道徳的判断と情動の関連を検討する動きがみられます。例えば、他者を傷つける行動と被害者の恐れと悲しみを結びつけるために扁桃体が重要な役割を果たしていること、嫌悪感には島が関わっていることなどから、・・・(続きを読む)
第6章 気質とパーソナリティ特性の構造:発達的観点から - The The Structure of Temperament and Personality Traits (R. L.Shiner & C. G. DeYoung)
赤ちゃんを見ていると、人生の最初の時期から既に個人差があると誰しも感じることでしょう。人生の初期から見られる一貫性ある特徴を「気質」と呼びますが、乳児期の気質研究は、トマスとチェス(Thomas & Chess)が誕生時から見られる行動スタイルの個人差に注目したことから・・・(続きを読む)
第7章 抑制的および非抑制的側面に対する気質的な影響- Temperamental Contributions to Inhibited and Uninhibited Profiles (J. Kagan)
筆者のケーガン(Kagan, J.)は、気質や情動の研究者として知られています。本章で述べられている気質については、発達の連続性を検証するために縦断研究を行っています。行動の抑制傾向や非抑制傾向について、大脳生理学的特性が関与していることを示しており・・・(続きを読む)
第8章 社会性の発達 - Social Development (C. S. Dweck)
筆者のキャロル・ドウェックは、動機づけの研究者です。TEDでは『必ずできる!-未来を信じる「脳の力」-』というテーマで、「不合格」ではなく「未合格」という視点から、子どもが取り組んでいるプロセス(例:努力、粘り強さ、集中力など)を褒めることで、強くしなやかな子どもを育てることができると説いており、・・・(続きを読む)
第9章 アタッチメントの理論と研究:これまでの流れと展望 - Attachment Theory and Research: Precis and Prospect (R.A. Thompson)
アタッチメントとは、時間と空間を超えて人を結びつける持続的で情緒的な結びつき(Ainsworth, 1973)です。この結びつきが、危険やストレスのある状況での安全な避難場所となったり、困難に挑む際の安心感の源となったり、情動調整を支えたりします。・・・(続きを読む)
第11章 子ども期の仲間関係 - Peer Relationships in Childhood (K. H. Rubin, J. C. Bowker, K. L. McDonald, & M. Menzer)
子どもの仲間関係に関する学術的な議論というのは、少なくとも1800年代後半から1900年代初めにターマン(LuisTerman)やスタンリー・ホール(Stanly Hall)など著名な心理学者らによってなされてきました。1931年に出版されたHandbook of Child Psychology(Murchison,1931)では、・・・(続きを読む)
第12章 遊び - Play (A.D. Pellegrini)
この章において、筆者は遊びの定義を提案し、身体を動かす遊び、もの遊び、社会的遊び、ふり遊びの個体発生を描きだすとともに、それぞれに可能性のある機能を検討しています。今まで、遊び研究は、ピアジェなどの発達心理学者を始めとしたさまざまな学問領域で研究されてきました。・・・(続きを読む)
第13章 向社会的行動の発達 - Prosocial Development(N. Eisenberg, T.L. Spinrad, & A.S. Morris)
向社会的行動は、思いやり行動や他者に対する援助的な行動を指しますが、本章では、向社会的行動に関連する情動として、共感、同情、個人的苦悩を挙げ、それらを区別すべきであると強調しています。第一著者のナンシー・アイゼンバーグは、気質(個人の傾向)における自己制御の側面であるエフォートフル・コントロール(Effortful Control; EC)の研究にも精力的に取り組んでいますが、・・・(続きを読む)
第14章 子ども期のジェンダー発達 ― Gender Development During Childhood (Campbell Leaper)
この章では、社会文化的な性であるジェンダー(gender)の発達について、気質などの遺伝的要因の影響を扱った論文から仲間関係、親、教師などの環境的要因の影響について述べられた論文など幅広く紹介しています。”sex”と”gender”という用語の用法に関しては、いくつかの異なる用法がありますが、・・・(続きを読む)
第15章 発達における自己の概念化 - Self-Conceptualizing in Development (Philippe Rochat)
自分は何者であるのか。この章では、自己の発達について、主に乳幼児期に焦点を当て、自分という感覚を構成するものは何か、自分についてどのように考えるようになるのかについて問うています。自己については、哲学でも長く議論されてきましたが、発達の初期段階における自己の感覚については・・・(続きを読む)
第16章 心の理論:内省と社会的理解 - Theory of Mind: Self-Reflection and Social Understanding(Astington, J. W., & Hughes, C)
の理論とは、色々な心的状態を区別したり、心の働きや性質を理解する知識や認知的枠組のことをいいます。また、この理論は、他者の気持ちを理解したり、他者の視点をどの程度取得することができているのかといった発達の特徴を理解するのに役立てることができます。Premack & Woodruff(1978)は・・・(続きを読む)
第20章 発達的観点からの攻撃性と反社会的行動 ― Aggression and Antisocial Behavior: A Developmental Perspective (J.R. Séguin & R.E. Tremblay)
攻撃性が高く、反社会的とされる行動をいかに予防し、介入するか。本章では、攻撃性と反社会的行動に関連する発達的要因を理解することを重視し、これまでの反社会的行動研究を全体的かつ具体的に概観しています。例えば、身体的攻撃は発達とともに減少することが明らかになっている一方で、・・・(続きを読む)
第23章 発達におけるリスクとレジリエンス ― Risk and Resilience in Development (A.S. Masten)
本章では、タイトル通り、発達過程におけるリスクとレジリエンスについての研究を概観しています。「レジリエンス」という用語は、弾力性や立ち直る力という日本語に訳すことができますが、すでにわが国でもレジリエンスという片仮名用語が定着しつつあります。「レジリエンス」とは、・・・(続きを読む)
1. Developmental Psychology: A New Synthesis. Philip David Zelazo
2. Personality and Emotional Development: Overview. Nathan A. Fox, Bethany C. Reeb-Sutherland, and Kathryn A. Degnan
3. The Development of Stress Reactivity: A Neurobiological Perspective. Megan R. Gunnar and Adriana M. Herrera
4. The Development of Emotion Regulation: Integrating Normative and Individual Differences through Developmental Neuroscience. Marc D. Lewis
5. The Developing Moralities: A Cognitive Neuroscience Approach. R. J. R. Blair
6. The Structure of Temperament and Personality Traits: A Developmental Perspective. Rebecca L. Shiner and Colin G. DeYoung
7. Temperamental Contributions to Inhibited and Uninhibited Profiles. Jerome Kagan
8. Social Development. Carol S. Dweck
9. Attachment Theory and Research: Precis and Prospect. Ross A. Thompson
10. A Neural Networks, Information Processing Model of Joint Attention and Social-Cognitive Development. Peter Mundy
11. Peer Relationships in Childhood. Kenneth H. Rubin, Julie C. Bowker, Kristina L. McDonald, and Melissa Menzer
12. Play. Anthony D. Pellegrini
13. Prosocial Development. Nancy Eisenberg, Tracy L. Spinrad, and Amanda S. Morris
14. Gender Development During Childhood. Campbell Leaper
15. Self-conceptualizing in development. Philippe Rochat
16. Theory of Mind: Self-Reflection and Social Understanding. Janet Wilde Astington and Claire Hughes
17. Sociocultural Contexts of Development. Mary Gauvain
18. An Overview of Developmental Psychopathology. Dante Cicchetti
19. Modularity and Developmental Disorders. Michael S. C. Thomas, Harry R. M. Purser, and Fiona M. Richardson
20. Aggression and Anti-Social Behavior: A Developmental Perspective. Jean R. Séguin
21. The social environment and the development of psychopathology. Kirby Deater-Deckard
22. Attention Deficit/Hyperactivity Disorder: Towards a Developmental Synthesis. Edmund J S Sonuga-Barke
23. Risk and Resilience in Development. Ann S. Masten