投稿日: Jan 10, 2019 1:3:51 AM
「合いの手」とは、歌の節の合間に伴奏楽器ではさむ演奏や、掛け声や手拍子を言います。これはなかなかに面白い手法です。
「炭坑節」(福岡県民謡)を思い浮かべてみてください。
♪月が出た出た 月が出た(ヨイヨイ)
三池炭坑の上に出た
あまり煙突が高いので
さぞやお月さん けむたかろ(サノ ヨイヨイ)♪
括弧の中の言葉が「合いの手」部分です。♪月が出た出た 月が出た♪の後のいわくありげな休符では、思わず掛け声をかけたくなりますよね。そこにすかさず入れるのが「合いの手」です。
今、これを書いているのは、2018年の大晦日なのですが、ちょうど歌番組で、氷川きよしが「きよしのズンドコ節」(作詞:松井由利夫、作曲:水森英夫、唄:氷川きよし))を歌っています。♪向こう横丁のラーメン屋♪の後に♪(ンパパヤ!)♪と、いい調子の「合いの手」です。♪ズン ズンズンズンドコ(キヨシ!)♪のところなどは、ちょうど(キヨシ!)と入るように休符を入れているのでしょうが、歌い手冥利につきる「合いの手」になっていますね。
「合いの手」は、かける方もかけられる方も気分が盛り上がって、一体感が持てます。音楽が持つコミュニケーション機能がよく現れる、うまく作られた仕掛けです。
「合いの手」ということばは邦楽由来ですが、その手法は邦楽以外でも使われています。また、上のような「合いの手」は「歌い手」とは違う人物が担当しますが、歌い手と「合いの手」が同じ場合もあります。
たとえば、チェコ民謡の「おお牧場はみどり」(作詞:中田羽後)では♪おお牧場はみどり、よくしげったものだ(ホイ)♪のように入れられています。歌い手がそのまま「合いの手」も歌いますが、「合いの手」によってアクセントがついたようになり、歌い手全体に勢いや楽しさが広がります。
就学前によく歌われる曲にも同じような「合いの手」効果が見られる曲があります。たとえば「バスごっこ」(作詞:香山良子、作曲:湯山昭)などです。♪おとなりへ(ハイ)♪というように(ハイ)と同時に切符を渡す真似をしたり、♪よこむいた(ア)♪のところで(ア)の掛け声に合わせてあちこち見たり、♪ごっつんこ(ドン)♪のところで(ドン)に合わせてぶつかりっこしたりできるようになっています。掛け声と同時に動作が入ることによって、体でリズムを感じ、歌う楽しさが増します。非常に効果的に「合いの手」を使った曲と言えるでしょう。
全体を通して「合いの手」が入っている曲もあります。「幸せなら手をたたこう」(作詞:木村利人、アメリカ民謡*)などはその一例です。♪手をたたこう(手手)♪という歌詞に誘われて、いい具合に何度も手拍子が入りますよね。歌詞だけでなくお互いに顔を見合わせながら手をたたくことによって、「幸せ」感が増す感じです。みんなで自由に歩きながらやスキップしながら歌って、♪手をたたこう(手手)♪のところで止まって、目の前にいる人と手を打ち合わせる、などしてみても、楽しいでしょう。
「茶摘み」(文部省唱歌)で手遊びを入れる時、♪夏も近づく八十八夜(手手)♪などのように、フレーズの終わりでいつも双方の両手を打ち合わせるのも、「合いの手」様の手拍子ですね。
就学前に歌われる曲の中では、「ながぐつマーチ」(作詞:上坪マヤ、作曲:峯陽)がそれに当たります。
♪ながぐつはいてるね(ドンドン)
ガボガボあるこうね(ドンドン)
どろんこ道でもさ(ドンドン)
ほら 平気であるこうよ(ドンドン)♪
ところで、この「ながぐつマーチ」で耳を疑うような演奏を聴いたことがあります。ある保育園の発表会でしたが、「ながぐつマーチ」を合奏にしていました。歌は入れず、先生のキーボードに合わせて、子どもたちがタンブリンやカスタネットで、拍打ちをしていました。そして、なんと(ドンドン)の部分は、全員お休みにしていたのです。便宜的に歌詞に合わせて示すと、ちょうど下のような感じで、○の部分で楽器を打ち、×の部分で休符にしていました。
♪ながぐつはいてるね (ドンドン)♪
○ ○ ○ ○ ○ × ×
「合いの手」の(ドンドン)が、まるで消えてしまい、子どもたちが一生懸命「ウンウン」と両手を広げて「お休み」の動作をしているのだけが見えました。歌わず「合いの手」も入らずの演奏は、「タンタンタンタンタンウンウン」を一生懸命覚えた、ただのリズム修行のようです。この曲の何が面白いと思って選曲されたのだろうかと、不思議でなりませんでした。
この歌は、歌いながら(ドンドン)のところで足踏みでもしたら、本当にながぐつを履いてたくましく歩き進んでいる感じで歌えます。歌い歩きながら(ドンドン)部分で声と共に動作を入れたり、歌に合わせて「合いの手」担当が(ドンドン)部分で音を鳴らして掛け合いにしたりと、色々に遊びたいものです。そうすることによって、休符をうまく生かす効果を学んだり、それによる盛り上がりや掛け合いの面白さを知ったりしていくと言えると思います。
子どもたちに歌を紹介する時は、どこが面白いポイントか、何度も歌ったり、楽譜とにらめっ
して面白い仕掛けや構造を探したりしたいものです。「合いの手」もその一つです。大人が(キヨシ!)と笑顔で掛け声をかけるように、子どもたちにも歌のノリを感じたり、その秘密を知ったりしてもらいたいものだと思います。
(執筆:山中 文 2018年12月31日)