投稿日: Sep 19, 2016 1:10:59 AM
写真集。脱力系というのか、癒し系というのか。日常の本当にさりげない一コマを温かい眼で切り取って、見せてくれる。国語辞典の解説を、今評判の写真家の梅佳代の写真と組み合わせていて、そのマッチングも思わず、笑ったり、ちょっぴり感動したりする。
最初の「愛情」は「相手を自分にとってかけがえの無い存在としていとおしく思い、また相手からもそのように思われたいと願う、本能的な心情」と辞典にあるらしい。それに対する写真は、多分、この梅佳代さんの家族なのだろう、おじいさんの頭に、妹らしき人が晴れ着を着て、袖を振って、掛かったところが写っている。その表情がよいのである。何とも嬉しそうだ。成人式でもあるのだろうか。おじいさんの嬉しそうな顔はきっと孫の成長への喜びなのではないか。なるほど、愛情というのを具体的に表すとこうなるのか。
犬や猫もよく出てくる。この家に飼われているのだろう。「生一本」では、犬が雪の中を何やら楽しそうにのんきそうに道を作って歩いている様子だ。この犬はきっとまじめなのだろうね。
「恋」は傑作だ。何やら物思いにふけっているらしい娘さんが金網のところで遠くを見つめている。それにしてもよくもまあ、こういう写真が撮れたものだ。
「照れる」に出てくる男の子の照れた様子が何とも言えず、かわいらしい。梅佳代さんはやんちゃな感じの小学生くらいの男子が大好きらしい。「男子」という写真集もあるくらいだ。
こうやって一つ一つを解説し、感想を書き付けていったらきりがない。でも、何度見ても思わずほほえんだり、その前後のドラマを想像したり、どんな人なのだろうかと思いにふけることもある。その内、ゆっくりと時間が過ぎる感覚となり、肩の力が抜けてくるのである。
そうか、小さな子どもを見ていて、思わず見とれてしまう、あの感覚に似ているのである。子ども相手のことというのは、真面目に考えると、しつけだの、教育だの、安全だの、関わりだのとややこしいことになる。仕事であれば、それは当然のことだ。でも、それ以前に子どもは愛らしい。
きっと人すべてが愛らしい存在なのだろう。少なくともそういった瞬間が誰にでもあるのではないか。素敵だと思え、楽しいと感じさせ、ほーと少しの感動を与えてくれるところである。そんなささやかだけれど、人の素晴らしさを教えてくれる写真集だ。難しい理屈はいらない。疲れたときにでも手にとって、適当な1ページを開くとよい。そこから、つい忘れてしまいがちになる人への思いが思い出されることだろう。
(紹介:無藤 隆,2014年11月10日)