投稿日: May 24, 2018 10:2:42 PM
作 クリス・ホートン
訳 木坂 涼
2012年10月15日 第1刷発行
BL出版
ちょっと変わった色合いのシンプルな表紙に目がとまり、手にとってみたら、斬新な色使いと森の中の小さなコミュニティが素敵だなと思って迷わず購入した本。高い木の上で眠っているフクロウの親子。その子が木から落ちてしまう場面はページが半分切れていて、めくると本当に木から落ちたように見えるしかけ。親子が集まるサークルで読んだら、その豪快な落ちかたに、「落ちた!」と2歳のゆうくんは思わず立ち上がった。絵本では、それを見ていたリスが「ありゃりゃ、おまえさん だいじょうぶかい?」と声をかけるので、その表現にホッとする空気が流れる。アイルランドの本なので、これは翻訳した木坂さんのセンスなのだと思う。
「ぼくのママ どこにいるの? どこかいっちゃった」とフクロウの子がいうと、今度はあっくんが「上 上 落ちたでしょ!」と天井を指さしながら教えてくれるので、笑ってしまう。「だいじょうぶ だいじょうぶ」と、リスがママをさがしてくれることに。「で?きみの かあちゃんはどんな感じ?」「ぼくのママはね、 すごーくおおきいんだ。こーんなに」とここから、リスとふくろうの会話がおもしろい。リスがみつけてくれたのは画面いっぱいに描かれた大きなクマ。
最後はカエルがママを探してくれるのだけれど、「ママ!ママ! ぼくのママー!」の場面ではフクロウのお母さんの目に涙。読み終わってから、見ていたお母さんたちが「いい本ですね。見ていいですか?」ともう一度、ページを開く姿があり、ちょっとうれしかった。
最初のページに作者のクリス・ホートンが引用している言葉が書かれている。
“私たちは自分の置かれている状況がなかなか見えない。正反対の状況と比べなければ。また、自分がどんなに恵まれているか、失ってはじめてわかるのだ ダニエル・デフォー著「ロビンソン・クルーソー」より 父と母に愛をこめて”
わたしは、これを読むたびに、今の平和がちゃんと子どもたちに残せますようにと思う。
(紹介:安井素子, 2018年5月9日)
クリス・ホートン
アイルランドのダブリンで育つ。世界を旅し、ウェイターや英語講師など、さまざまな職業を経験。香港滞在中に、新聞のイラストを描き始める。ネパールでフェア・トレードに関心をもち、ロンドンで、People Treeに勤務。現在はデザイナー、イラストレーターとして活躍し、2007年、アメリカのタイム誌のデザイン100に選ばれた。2011年には、アイルランドを代表する児童書に贈られるビスト最優秀児童図書賞とともに、新人作家を対象とするエイリース・ディロン賞を同時受賞するなど、受賞多数
木坂 涼/詩人、絵本作家