投稿日: Jul 05, 2018 1:12:36 PM
大学2年生の模擬保育。学生は、紙芝居を制作して来ました 。
タイトルは『たろうくんのいちにち』。このようなお話から始まります。
「ふぁ〜・・・もう朝か。おはよう。」たろうくんは目覚まし時計の音で起きました。「ん?何か聞こえてくるけど、お母さんが朝ごはんを作っている音かなあ。お腹がすいたし、歯磨きをして朝ごはんを食べよう!」と、ドアを開けて下へ降りて行きました。
紙芝居には、たろうくんが目を覚まして朝ごはんを食べたり歯磨きをしたり、その後散歩に出かけて踏切にさしかかったり、海岸を歩いたり公園に寄ったり・・・。そしてお風呂に入って眠るまでの、たろうくんの一日が描かれてありました。
模擬保育は、まず保育者役の学生がその1枚ごとに、「どんな音が聞こえるかな」と尋ねます。それに対し、子ども役の学生がその情景に聞こえると想像する音を擬音で表現するといった応答的なやりとりで展開しました。
擬音での表現が終わると、次に、カスタネットやタンブリン、トライアングル、ウッドブロック、ギロなどの打楽器や、新聞紙、ビニール袋、スズランテープ、空き缶といった身の回りのモノが用意されました。そして、保育者役の学生が、「いま声で表した音を、今度はここに置いてあるモノで鳴らしてみます。さあ、音を探して!」と声を掛けます。子ども役の学生は、「あの場面の音」を表現できるモノは何か、音を鳴らしながらその「音」を探しました。例えば、目覚まし時計はトライアングルの連打、カエルはギロ、波の音はビニール袋と新聞紙・・・といった具合に。
再び紙芝居が読み始められ、それぞれの場面の絵に音が重ねられていきます。最後の1枚になった時、カスタネットを一度も鳴らさないでずっと手に持っていた女児役の学生が、お母さんが部屋の明かりのスイッチを消す場面で、ここぞとばかりにカスタネットを勢いよく鳴らしました。
すると、他の子ども役の学生から大きなブーイングが起こります。「お母さんは、そんな大きな音させないよ!」、「そんな大きな音だと、目が覚めちゃうでしょ!」と。
最後の1枚には、ベッドに入ったたろうくんの姿と、壁にある電気のスイッチと、スリッパを履いて階段を降りるお母さんの足元が描かれてあり、次のようなお話になっています。
「あ〜気持ちよかった。今日は楽しかったなあ・・・」ん〜〜〜〜。たろうくんは眠たくなってきました。お布団に入り、お母さんが電気を消して階段を降りていく音をききながら、夢の中へ入っていきました。ふくろうさんもたろうくんに「おやすみ」を言っています。おやすみ、たろうくん。
「あっそうか!うん、うん」と学生は頷き、手のひらのカスタネットを、母親が静かにスイッチを切るように、ゆっくりと柔らかく鳴らしました。寝息をたてる子どもの側で、お母さんが足音を忍ばせ、静かにスイッチを消す姿を思い描いているように。
研修等において、「楽器の正しい鳴らし方」、「楽器の正しい持ち方」について教えてくださいという問いをいただくことが少なくありません。そんな時、私はこのカスタネットのエピソードをお話しします。「楽器の正しい鳴らし方」、「楽器の正しい持ち方」とは、特定の方法を教えるのではなく、そこに「どのような音が必要とされているのか」、そこで「どのような音を鳴らしたいのか」と考え、実際に鳴らして試しながら工夫していくこと。そのプロセスが大切なのです。これは幼児期の音楽表現に限ったことではなく、プロの演奏家こそが音楽表現においてそのような音の探求をしているのです。
学生の紙芝居『たろうくんのいちにち』は、楽器や身の回りのモノの音で表現された後、『みんなのいちにちとなりました』と書かれた最終ページが用意されていて、模擬保育は終了しました。「身の回りの音を聴く」、「身の回りの音を想像する」、「身の回りのモノで音を表現する」といった見事な構成です。加えて、子どもになりきって、「聴く」→「感じる・考える」→「工夫する」を実現する展開も、とても優れていると思いました。協同して表現することにより、「たろうくんのいちにち」が「みんなのいちにち」に変化するところも、粋ですよね!
おしまい。
(執筆:吉永早苗 2018 年6月28日)