投稿日: May 27, 2018 3:39:21 PM
5月12、13日、杜の都仙台で日本保育学会第71回研究大会が行われました。緑が美しく、心地よい季節です。子どもたちと自然との触れ合いを存分に楽しめる時期なのではないでしょうか。本書は、スウェーデンの幼児向け自然環境教育プログラムである、森のムッレ教室の保育実践例の紹介している本です。
森のムッレ教室とは、5-6歳を対象とした自然環境教育プログラムで、スウェーデンのヨスタ・フロム氏によって開発されました。現在、スウェーデンや日本のみならず、フィンランド、ノルウェー、ロシア、ラトビア、イギリス、韓国など、多くの国や地域の子どもたちが参加しています。ムッレ教室の目的は、「自然に出かけることは楽しい」ということを子どもたちに伝え、子どもたちが体験を通して自然界の循環を知ることにあります。「ムッレ」という妖精は子どもと自然界の橋渡し役として登場します。森のムッレ教室では、子どもたちに三つの約束をします。それは、第一に、自然の中で大きな声を出さないこと、第二に、植物は根っこから抜かないこと、第三に、自然の中にごみをすてないこと(自然に帰らないものは持ち帰ること)です。
森のムッレ教室について、「その理念を日本の自然環境でどこまで実践につなげられるのか」、また、「登場する妖精であるムッレは日本の子どもには馴染みがない」といった声を耳にします。本書は、このような保育現場からの疑問の声を解消できるのではないかと思われる本です。私にとっても待望の一冊です。
本書は、各園での森のムッレ教室の実践例をわかりやすく紹介しつつ、実践中の子どもの反応や表情を捉え、子どもの育ちの姿と保育者のねらいと関連付けながら、丁寧に記載されています。特に興味深かったのは、「ムッレに変身!」や「巣にかえろうゲーム」です。ムッレ教室を体験した後で、「巣にかえろうゲーム」をすると巣に帰ってホッとする気持ちを味わい、羽をパタパタ動かす動きをしながら巣に急ぐ子どもの姿が見られるようになったそうです。
子どもの日常の遊びの中で見られる「何かになりきる楽しさ」や「思わず身体の動きで表現する」といった子どもの楽しみ方や表現の特性をうまく取り入れながら、日本のどの保育現場でも実践できそうな例をいくつも紹介しています。遠く離れた場所にあり、気候や風土、自然環境は日本と大きく違う、スウェーデンで生まれた自然環境教育がこの本を通してぐっと身近に感じられます。
(紹介:中田 範子,2018年5月18日)
目次
第1章 自然環境教育の必要性
第2章 森のムッレ保育の実践
第3章 日本での「自然」保育・教育と森のムッレ活動の広がり