投稿日: May 19, 2017 12:38:41 AM
「デンバーに来るなら見ておかなければいけない園がある」
大学院時代の指導教授だったレベッカ・カンター先生(現在コロラド大学デンバー校の教育発達学部学部長)の強い勧めで、2016年8月末に訪問しました。普段から出入りしている園に、一日の終わりの1時間半くらい自由に見学させてもらいました。子どもが少ない時間帯だったので、逆に環境の写真を撮ることができました。ボウルダー市郊外の住宅地の一角に、その建物はあります。時間調整のために、周囲を散歩しましたが、安心して散歩できるおだやかなエリアです。
園の入り口を入ると、まず右手に事務所と受付があり、左手には、職員用のラウンジやワークスペースが配置されています。そこに職員用のメールボックスなども置かれています。入口を入るとすぐに、園の歴史や教育哲学、これまでの研究報告がわかる資料が掲示されています。さすがに全国的な研究会を毎年開いているだけあり、セルフ・ガイディッド・ツアーができるくらいのドキュメンテーションが常設されています。 この資料は、ウェブサイトでも見ることができます。
http://educators.boulderjourneyschool.com/ 保育者向けページ (保護者向けもあります)
ボウルダー・ジャーニーは、レッジョ・エミリア・アプローチの哲学にインスパイアされた学校です。イタリアと直接関係を持ちながら研究を進めてきたことでも知られています。日本からも見学されている方が少なからずいらっしゃるそうです。同時に、フランシス&デイビッド・ホーキンス博士に継続的に指導を受けてきたそうです。
(20年以上にわたって、世界的に知られたイタリアのレッジョ・エミリアの学校との協力関係と、彼らの哲学と価値観の研究に触発されてきました。また近隣のボウルダー近郊の教育者たちと、フランシス&デイビッド・ホーキンスからも学んで、我々のアプローチや考え方が形作られてきました)
ボウルダー・ジャーニー・スクールは、1984年に週1回の親子教室Make a Mess and Make Believeからはじまりました。今は生後6か月から5才までの200人以上の子どもたちとその家族が通う私立園です。開園時間は、1日10時間。週5日、年間を通して運営されています。「学校」というと、8月後半から5月末か6月初旬までの10か月が一般的ですので、スクールという名前ですがこども園に近いものです。レッジョ・エミリアの就学前学校も、Schoolと英訳され、子どもたちのしていることや考えに高い価値を置いていること、この時期ならではの小学校以上の子どもたちと遜色のない意義があることを示しています。
敷地は、1580平方フィート(約146.9平方メートル)ほど、教室が14、アートスタジオ1部屋、素材室が1部屋とシアターがある。教室はすべて直接庭(outdoor learning areas)に出られるようになっていて、「外も含めてすべての環境が子どもたちの探索活動を深めるようデザイン」されています。
子どもたちの学びの経験は、「協働」「創造性」「コミュニティ」を大切にすることから生まれると考えられていて、子どもたちの不思議と驚きからはじまる活動が尊重されます。
子どもたちと同様に大人の学びも尊重されています。子どもの学びのドキュメンテーションの横に、その学びを支えるための、大人の学びのドキュメンテーションが展示されていました。レッジョ・エミリアの哲学を取り入れるということは、保育者にも高い質の学びの機会を開発するということです。そして、その保育を、地域に開き、国内外の乳幼児教育に高い志を持つ人々とのネットワークを築いてきました。
展示より: 私たちの学校の教師は、職責の一部として研究に従事し、その論文や研究発表は評価を受けています。ボウルダー・ジャーニー・スクールは、研究大会、スタディ・ツアー、アメリカ及び世界中の教育者への助言を提供します。強固な協働体を作り上げ、乳幼児教育においてそのリーダーシップと先駆的取り組みで国際的に認められています。(注:スタディ・ツアーは1日一人$150で、ウェブから申し込むことができます)
教室の環境の一部をご紹介します。子どもたちがいない部屋(全員帰宅して、片付けをしている部屋)でないと写真をとることができなかったので、ご了承ください。
この地域は、比較的経済的に安定している家族が多く、保育料が高めでも通園してくるし、研究会や研修で園が休みになることも理解して協力してくれる家族ばかりだそうです。だから、人によってはレッジョ・エミリア・アプローチを、特別なものとみなすこともあるようです。けれども、こうした卓越した実践が地域に開かれてあることで、ボウルダー・ジャーニーから学んで、それぞれの地域や園で可能な方法で、『子どもたちの育つ権利や学ぶ権利、考えを表現する権利』を大切にして保育に取り組んでいる園は少なくないそうです。
新しい取り組みとしては、コロラド大学デンバー校とコロラド州教育課と連携して、インターン教師たちに教育と人間発達修士号とコロラド州教員免許を取得する機会となる教師教育課程を提供しています。レベッカ・カンター先生の大学との連携によって、この園で補助教員として働きながら経験を積み、講義の一部を園内で受けることができます。また、その機会は園の職員の研修機会にもなります。
Ellen Hallさんというリーダーが築いてきたこの園が、どのように持続していくか、この園が提案している専門研修や保育者養成が定着していくか、レベッカ・カンター先生たちは協力しながら、見守っていくそうです。
(執筆: 内田千春 2017年5月5日)