投稿日: Sep 19, 2016 1:16:59 AM
精神科医の中井さんが、みずからの診療経験に沿って、精神的な病(主には統合失調症)の患者さんに対して、具体的にどのように対し、どのような言葉を掛けるかを述べたもの。看護師相手の講義録らしい。
例えば、受診の最初には、「一生に何度もない、大事なときである」と説明する。これからどうなるかを聞かれたら、「これから大いに変わりうる」と希望を処方する。診断にあたっては、「そこまでいかないようにお互いに協力しよう」というように、宣告を避ける。患者には、「きみの側の協力は、まず第一に都合の悪いことを教えてくれることだ」と依頼する。治るとは、「病気の前に戻ることではない。治るとは病気の前よりよくなることだ」と述べる。等々。あるいは、回復過程は山を下るようなものだ。そこにこそエネルギーがいるし、危険もある。
精神医学や心理療法の実践に関心のある人だけではなく、心の病に苦しみ、あるいは身近にそういう人がいる人は是非読むとよいでしょう。
そうでなくても、この具体的なコツを述べる記述の底にある深い叡智に感動するに違いありません。
中井先生の著作を、その断簡零墨に至るまで読みたいと思う人は少なからずいると思う。実際にそれに値する人である。透徹した怜悧な頭と、具体的な細部に手が届く職人肌と、患者のためにという徹底した姿勢と、何よりそれらを描き出す文学者としての鮮やかな文章と、その組み合わせにおいて、まれに見る存在だろう。
(紹介:無藤 隆,2014年11月15日)