Chapter7 Temperamental Contributions to Inhibited and Uninhibited Profiles
Jerome Kagan(2013).
pp.142 - 164.
筆者のケーガン(Kagan, J.)は、気質や情動の研究者として知られています。
本章で述べられている気質については、発達の連続性を検証するために縦断研究を行っています。
行動の抑制傾向や非抑制傾向について、大脳生理学的特性が関与していることを示しており、生理学的指標を心理学に取り入れた先駆者とも言われています。
また、対立遺伝子という点から、気質の文化差についても触れており、膨大なデータから説明された章となっています。
気質的な傾向は、生物学に基づく情動的および行動的な側面である。これらの傾向は、発達の初期に出現し、経験によって多様な人格の特徴が形成されていく。本章では、まず、気質カテゴリーの基盤となる可能性がある遺伝的および非遺伝的要因について述べる。次に、抑制的および非抑制的な子どもになる傾向として、反応性の高い乳児と低い乳児に関する研究を詳細に示す。最後に、これら二つの気質による精神病理学への示唆を議論し、生殖的に隔離された集団が気質的に異なることへの仮説を述べる。
キーワード: 気質(temperament), 遺伝子(genes),神経生物学(neurobiology),反応性(reactivity),抑制(inhibition),扁桃体(amygdala),精神病理学(psychopathology)
気質とは、生物学的プロセスに起因しており、特定の心理学的性質になりやすい傾向である。
生物学的プロセスは、遺伝性の神経化学的もしくは神経解剖学的条件、または、出生前もしくは出生後早期の出来事の結果である可能性がある。
生物学的条件の数は、これまで発見されてきた気質の数よりはるかに多い可能性がある。したがって、多くの生物学的条件が気質に寄与していないか、異なる条件で類似の気質的表現型となって表れていることが考えられる。
セロトニン伝達物質の多型、一つ以上のドパミン受容体、COMT(カテコール-O-メチル基転移酵素)や、オキシトシン、バソプレシン、性ホルモンの変異など、気質の基盤になると思われる遺伝性の神経化学物質の候補がいくつかある。
新奇な出来事や予想外の出来事に対する最初の心理学的反応の個体差はあらゆる脊椎動物に見られるが、人間においては、気質的な傾向として現れる。
4ヶ月児を対象としたケーガン(Kagan)らおよびフォックス(Fox)らによる縦断研究では、新奇刺激に対して苦痛を感じたり、運動面で興奮したりする子どもと、それらの特徴を最小限しか示さない子どもを扱った。前者を高反応者と呼ぶと、そのような乳児は、内気で臆病な子どもになる傾向があり、青年期になると、現実に起こりそうにない未来の出来事に対して不安に思う傾向がみられた。一方、低反応者とされる、くつろいでいられる乳児は、恐れ知らずな子どもになり、青年期では外向的になる傾向がみられた。
反応性の高い乳児の子ども期および青年期の生理機能は、大脳辺縁系の回路の反応性が高く、左前頭前皮質よりも右前頭前皮質の活性が強い傾向があることが示唆される。
ほとんどの高反応児は、初期の内気さを克服するが、依然として用心深く、困難な課題によって不安が喚起されやすい。
気質的傾向の主要な効果は、特定の人格的パターンに導くというよりは、いくつかの特定のパターンへの発達を制約することである。
生殖的に孤立した人間の集団では、ゲノムの違いが気質的傾向に違いをもたらしている。
(発表担当者および発表日:丹羽さがの/2015年9月)
(まとめ:伊藤理絵)