投稿日: Mar 07, 2021 11:33:39 AM
震災の後、何冊もの絵本が出版された
あの日を忘れないためにも
絵本という媒体を通して後世に残していくというのは
大事なことだと思う
あの津波に流されていく映像をみて、
TVの前で体が硬直し、涙が止まらなかったこと、
そして、東北でたくさんの人の話を聞いて、
今度は前に向かって進もうとする人の力と心に涙が止まらなかったこと。
わたしの人生観が変わったと言っても過言ではない。
子どもの傍らにいる大人としてこれからどう考えていくのか…。
作品のほとんどが実話に基づくものばかりで、
それだけ読むのも辛いものもあるけれど、
それでも伝えたい気持ちが本になっていると思うので、
あえていつもよりたくさん紹介します。
希望の牧場
森絵都 作
吉田尚令 絵
岩崎書店
2014年9月30日 第1刷
避難指示が出された浪江町で、牧場に残り牛を飼育し続けた“オレ”の話。実話に基づいて作られている。この本を紹介するにあたり調べたところ、2020年3月現在、まだ260頭もの牛たちが元気に暮らしているという。
原発事故が起きた年の2011年9月19日、わたしはデモに参加するわけでもないのに、明治公園の原発反対集会に足を運んだ。残暑厳しい中、たくさんの人が集まっていた。そこで、聞いた福島の武藤類子さんのスピーチに涙があふれた。「毎日、否応無く迫られる決断。逃げる、逃げない。食べる、食べない。子どもにマスクをさせる、させない。洗濯物を外に干す、干さない…何かに物申す、黙る……」。
この絵本の中の“オレ”は国の殺処分の決定に応じず、「逃げない」と決断したことにより様々な思いをするのだが、協力してくれる人が現れ「希望の牧場」と呼ばれるようになる。しかし、10年が経とうとする今も、町は元の通りにはなっていない。浪江の町の希望とは何を指すのだろうか?
茨城の友だちが「中学3年の子に『私たちは子どもを産んではいけないの?』と聞かれ何も言えなかった」と涙を流したけれど、その不安はいまだ消えていないのではないか。オレは牛飼いだからという言葉が何度も繰り返される。
わたしは“オレ”の生き方に共感する。
モデルが存在することもあるのか、絵がとてもいい。
少し大きい子どもたちと読みたい。
ほうれんそうは ないています
鎌田實 文
長谷川義文 絵
ポプラ社
2014年3月 第1刷
医師であり作家である鎌田實さんは2011年の原発事故の後、“ほうれんそうの身”になって考えてみたという。そして、長谷川義文さんが鎌田さんと同じ気持ちで全身全霊で描き抜いてできたという絵本。読むとちょっと苦しくなるが、放射能で大地が汚れるとはどういうことなのか、現実がよくわかる。絵本にすることによって、包み隠さず、真実を伝えることができていると思う。
今日、TVで汚染水の処理を含めての特集をしていた。もう一度薄めて海に流すことに、漁師が反対するのは当然だろう。今は福島産の魚は安全基準を満たしているが、それでもまだ買わない人が多い。そういうわたしも、無意識に野菜等の産地を確認してしまう。未だ風評被害はおさまっていないところへ、海に流しても安全だと言われても俄(にわ)かには信じがたい。汚染水のタンクの量に驚く。
子どもたちに残してしまった負の遺産であることだけは間違いない。子どもと関わる大人としてどう捉えたらいいのか、この10年の節目に改めて考えを深めたいとこの絵本のページをめくりながら思った。
(出版社サイト https://www.poplar.co.jp/book/search/result/archive/2083026.html)
ハナミズキのみち
文 淺沼ミキ子
絵 黒井健
金の星社
2013年5月 第1刷
津波で息子さんを亡くされた作者が泣いてばかりではなく、後世に伝えていく役割を感じる。陸前高田の海側から山側に延びるシンボルロードに避難路の目印として、ハナミズキを植樹することにしたという。このハナミズキのみちを辿(たど)って避難すれば高台にたどり着くという活動の発端が絵本となっている。まさにいのちを守る道。震災から2年ですでに出版されている。命について考えさせられる本。
わたしは震災のあった年からチャリティー活動をはじめ、現地で支援活動をしているSさんと直接コンタクトをとりながら、すべて流されてしまった保育園に園児の食器を送ったり、戸外で遊ぶことを制限されている福島の幼稚園にカプラを送ったり、園の子どもたちとどんぐりを拾って送ったりしていたけれど、3年たった時、「物はもういいから来て!」と言ってもらい足を運んだ。
浪江の立ち入り禁止区域ぎりぎりの津波の跡、堤防も壊れたまま、草ぼうぼうの小学校、畑の中にポツンとある車など、手つかずの状態に言葉を失い、少し高台の保育園へ向かった。見てきた様子を園長先生に話すと「わたしは、あれからまだ海へはいけていない…」と言われ、もっと言葉を失ったことが忘れられない。それでも、先生たちは「自分たちは前へ向かって歩いていると伝えて欲しい」と言われたことを、この本を見ると思い出す。失った物や命が伝えてくれたことは大きいのだと思う。
(出版社サイト https://www.kinnohoshi.co.jp/search/info.php?isbn=9784323072586)
なみだは あふれるままに
内田麟太郎文
神田瑞季絵
PHP
2016年2月 第1刷
震災復興絵葉書「生きる」を見て、内田麟太郎さんが詩を書き、その詩に「生きる」を描いた神田瑞季さんが絵を描いた。震災でおじいさんや友達を失くした神田さんがこの絵を描き上げるのに5年かかったという。そのことが、あとがきに代えて、二人の対談のかたちで載せられている。
震災後、海の前で立ち尽くしていた少女が道端にたんぽぽが咲くのを見つけて、お母さんのところへ走っていく。その姿を希望だと内田さんは書く。子どもたちの存在そのものが希望なのだととらえる内田さんの言葉がしっくりとくる。そして、何かにきっと守られていくに違いない安心感に包まれる。内田さんはきっと子どもたちは自然そのものだととらえられているのではないかと。
震災から10年経ち復興が進み、みんなが幸せになったかというと、“新型コロナウイルス蔓延…パンデミック”という未曽有のできごとに悩まされている。子どもたちにとってはますます住みにくい世の中になっている気がする。でも、わたしたちは、子どもたちに関わる大人として、まぶしい希望を大事に見守る仕事をしていかなければならないと思う。常に子どもたちの後ろから優しいまなざしを向けている、絵本の中の彼女のおじいちゃんのように。
(出版社サイト https://www.php.co.jp/books/detail.php?isbn=978-4-569-78382-6)
のっぽのスイブル155
こもりまこと
偕成社
2016年1月 第1刷
東日本大震災をきっかけに息をふきかえしたブルドーザーのものがたり。作者は“バルンくん”のシリーズを描いているこもりまことさん。こもりさんの描く車はいつも元気に動いている。そのこもりさんが描くスイブル155。使われていなかった水陸両用ブルドーザーが修理され、大津波で壊されてしまった港や橋を立て直すために活躍することになった実話を元に描かれた絵本。
この作品は、こもりさんの担当編集者がニュースで水陸両用ブルドーザーが活躍しているニュースを聞き、こもりさんに連絡をして、企画されたという。70年代に活躍し使われていなかったこのブルドーザーは、なんと運転席がなくラジコンで動かす。震災をきっかけに、こんな物語があったことは、この絵本がなければ気づくこともなかった。水陸両用ブルドーザー「D155W」については最後に説明されている。細かいところまで、しっかり描かれた絵も必見。
おにぎりをつくる
高山なおみ 文
長野陽一 写真
ブロンズ新社
2020年1月 第1刷
子どもたちが自分ひとりでもおにぎりがつくれるようにと願って作られたという絵本。災害がおきたとき、仕事しているお父さんやお母さんがすぐに帰ってこられないとき、自分でごはんを炊いて、おにぎりをにぎることができたら、おなかは満たされる。
作者の高山なおみさんはおにぎりを「いのち玉」と表現されている。おにぎりはコンビニで買えばいいと思っている子もいるかもしれない。でも、自分で作ったらそのおいしさに気づくはず。
作り方は写真で示されているので、わかりやすい。おこめの研(と)ぎ方から、炊飯器のスイッチの入れ方まで、写真で説明されている。熱いご飯の冷まし方、塩の量まで。文字は全部ひらがな。どこまでも“子どもが自分でできる”ということにこだわっている。これをみながら、自分でおにぎりをにぎったら「できた!」と「美味しい!」を味わえること間違いない。そして、誰かにきっと食べてもらいたくなる。
およぐひと
長谷川集平
エルくらぶ
2013年4月20日 初版第1刷発行
震災関連の絵本の中で、脱原発でもなく、当事者でもない長谷川集平さんの絵本。帽子をかぶり、荷物を方から下げ、“わたし”がみた、たくさんの瓦礫のなか、流れに逆らって「うちがあっちなもんですから。はやくかえりたいのです」と泳ぐ人。電車の中「とおくまで、できるだけとおくに にげるのです」というあかちゃんを抱いた人。
どちらの人も消えてしまうその“わたし”が家にかえると「あそこでなにがあったの?」と娘に聞かれる。「…ぼくがみたのは いえにかえるひとと、とおくにいくひと。ぼくらのようにテレビやしんぶんにのらないひとたち」といって胸をつまらせる。
消えていった命のこと、震災で起こっていたことを実際に体験していない子どもたちにどう伝えるのか?消えてしまった命をどう受け止めるのか…。とても考えさせられる1冊。この作品を手にした子どもは、自分で考えようとするのではないかと思う。震災時に生まれていなかった子どもたちにも“何か”が伝わる内容だと思う。
(書誌情報掲載サイト https://www.hanmoto.com/bd/isbn/9784759222609)
(絵本紹介・画像撮影:安井素子, 2021年3月1日)