Chapter 28 Imagination
Marjorie Tylor
pp.791-831.
想像性の研究は、人間の思考を理解しようとする近年の研究動向の中で中心的な役割を果たしているとみなされるようになってきました。つまり、心理学において、「想像力」が現実の理解と表裏一体に繋がったものであるとする見解が主流となってきたからです。
想像力があるから、私たち人間は、時間と場所、状況を超えて、そうであったかもしれない過去の可能性について考えたり、未来についての計画を予想したり、虚構の世界を創造したり(create)、我々の生活の実体験から離れたことも考えることができます。
これを心理学では、「メンタルタイムトラベル」と呼んでいます。新しい概念の登場により、日常の思考における想像力の果たす役割の重要性が強調されるようになってきました。
本章では、ごっこ遊び、物語、メンタルタイムトラベルなど、想像性の研究の中心となる領域を中心にレビューしています。
想像力は、そうであったらよかったという過去の可能性について考えたり、未来について計画、予想したり、虚構の世界を創造したり、実際の経験から離れているものもあればより近いものもあるがそれに代わるものについて考えるための、時間と場所、および/または状況を心的に超越する能力を指す。この多面的な能力は人生の早い時期に表れ、就学前期に大幅に発達する。この章の第1部は、ふり遊び、物語、およびメンタルタイムトラベルにおける社会的な想像力の発達を、これら全3領域(ふり遊び、物語、メンタルタイムトラベル)における自身および/または他者を含む想像上の社会的シナリオをシミュレーションすることが、現実世界の社会的理解の発達に貢献することを示唆しながら、レビューする。最終章では想像力と創造性の間の関係を議論し、定型発達の子どもと自閉症スペクトラムの子どもにおける想像力を比較し、今後の研究の方向性を示唆する。
キーワード:ふり遊び、シミュレーション、想像上の仲間(imaginary companion)、虚構と現実の区別、物語、メンタルタイムトラベル、反事実的推論、創造性、拡散的思考、自閉症
用語解説
”imaginary companion”という用語は、「想像上の仲間」または「虚構の遊び友達」などと訳される。これは、2歳から6歳までの子どもに見られることが多いが、解離性障害などとの関連で青年期などにも見られることもあると言われている。川戸・遠藤(2001)によると、その特徴としては、「第一に,想像上の仲間は子ども自身によって想像的に作り上げられたものであること。第二に、想像上の仲間 は状況に特異的かつ一時的なものではなく、ある程度持続的、断続的に子どもの日常場面に登場するということ。そして第三に、想像上の仲間には一貫したパーソナリティーが与えられる」といったことが挙げられる。
「想像力」とは、そうであったらよかったという過去の可能性について考えたり、未来について計画、予想したり、虚構の世界を創造したり、実際の経験から離れているものもあればより近くのものもあるがそれに代わるものについて考えるための、時間と場所、および/または状況を心的に超越する能力を指す。
ふり遊び、物語、およびメンタルタイムトラベルは、想像力の研究の中心となる、重なり合う論点や疑問を伴う一連の話題である。全3領域において、自身および/または他者を想像することが、子どもの自分自身に対する概念の発達、他者視点を取る能力、社会でうまく機能することに貢献しているようである。
ロールプレイの中で、子どもたちは、自身の経験を習得したり理解したりする感覚をもちながら、彼らに起こった出来事をうまくやりきったり、その意味を理解したりする。ロールプレイにおける仮想のシミュレーション上の地位を評価することで、情動スペースを安全に探索できる。
子どもは、幼児期の早いうちから物語を話し始める。そして、5,6歳までに、相当に語りの技能を伸ばす。それは、特に、彼ら自身のストーリー展開(あらすじ)と役柄(登場人物)を発展することが認められたときである。
メンタルタイムトラベルが始まるのは、就学前期の早い時期(年少の就学前児)までに過去と未来について話す中で見られるが、現在と反事実的過去、あるいは仮定的未来についての考えを調整する能力は児童期の中期に発達する。
反事実的前提を生み出し、別の過去が現在においてどのような異なる結果をもたらすかシミュレートすることは、現実の因果関係の理解や未来を計画する能力、計画する能力、そして後悔などの情動的体験に密接結び付く。
多くの場合、就学前児は、提示された情報を異なる現実レベルに分類することができ、比較的虚構と現実の区別をする能力に長けている。
定義と理論的な立場に応じて、創造性の発達について期待されることは、子ども時代には存在しない創造性からその後の人生においてより子ども時代に一般的に見られる創造性まで多岐にわたる。
創造性(creativity)を測る様々な標準化テストを通じて、足場かけ(scaffolding)のない新奇なアイデアを生み出すことは、自閉症スペクトラムの子どもには困難であることが分かっている。ただ、もしその課題がその子たちの強い関心のある特定(特別な)の領域に関わるものである場合には、より創造的である可能性もある。
以前は、想像力は、成長するにつれ消失するもの―子ども時代の虚構世界は、思考が現実により適応していくにつれ次第に消えていく―と信じられていた。しかし、日常生活における大人の認知や情動的経験における想像力の果たす役割がますます評価されるにつれ、想像力の研究により多くの興味が集まり、そしてその発達の流れは減少するというよりむしろ獲得され、より豊かになっていく。
(発表者:吉永安里 発表日:2014年11月10日)
(まとめ:白川佳子)