投稿日: Jan 29, 2017 11:48:43 AM
2017年最初の記事では、無藤隆先生の1月16日の投稿をご紹介します。
「幼児期の終わりまでに育ってほしい姿」を置く理由。
第一、幼児教育として重要性が明らかになってきたということがまず挙げられます。幼稚園・保育所・認定子ども園の教育が幼児期の教育として不可欠なものになってきたのだし、そう認識されたきたということなのです。だとすれば、教育としてどこまで子どもを伸ばしていくかを多少とも明確にする必要があるのではないでしょうか。主体的な遊びを大切にすることは前提の上で、それを通して子どもが学ぶように助け、それをどこまで支え、伸ばしていくか。それを示したい。それは年長の後半の子どもの姿と指導項目で見えてきます。
第二、幼児教育は遊びを大切にし、環境を通しての保育によりそれを可能にし、さらに保育者が様々に子どもに働きかけます。その活動の中身が保育内容です。5つの領域でのねらいと項目からなるわけですが、そこに実は年齢の低いところで育つことと高いところで育つことの両方の項目が含まれています。確かに、幼稚園教育要領では年齢を明示しないのですが、そういう幅は当然ながらあります。それを始まりは1年保育や2年・3年保育があるので無理ですが、終わりは皆、5歳児の最後に卒園するわけですから、共通にまとめることができます。そうすれば、保育内容が領域と発達の流れの組合せとして記述できて、指導に使いやすくなります。
第三、小学校への接続を明確にするという理由もあります。小学校側からしたときに、幼児教育の成果を受けて小学校教育を始めようとしても、いくつもの幼稚園・保育所・認定子ども園から子どもがやってくるとすれば、そしてそれぞれに個性的な教育をしているとすれば、そのどれを受けて、小学校を始めればよいか分かりません。10の姿としてそれば示されれば、どの幼稚園・保育所・認定子ども園でも、その姿に向けて指導を重ねており、ある程度はどの子どももそれを獲得してきていると当てに出来る。小学校はまずそれを伸ばすというところから始めればよいわけです。
(投稿はこちら)
幼稚園教育要領改訂のポイントとして、「幼児期の終わりまでに育ってほしい10の姿」の明示が挙げられます。その10の姿とは、
健康な心と体
自立心
協同性
道徳性・規範意識の芽生え
社会生活との関わり
思考力の芽生え
自然との関わり・生命尊重
数量・図形、文字等への関心・感覚
言葉による伝え合い
豊かな感性と表現
です。これらは、決してテストで測定するとか、そういうものではありません。
10の姿のベースには、以下の育成すべき資質・能力の3つの柱があります。
知識・技能の基礎・・・・・・・・・・何を知っていて、何ができるのか。
思考力・判断力・表現力等の基礎・・・知っていること・できることをどう使うか。
学びに向かう力・人間性等・・・・・・どのように社会・世界と関わり、よりよい人生を生きるか。
これらは小学校以降とのつながりを踏まえて示されています。もちろん、小学校以降の学習を前倒しするという意味では決してありません。
文部科学省の「次期学習指導要領等に向けたこれまでの審議のまとめについて(報告)」をみてみると、この3つの柱は、幼児教育においては、幼児期の特性から、教科指導で育むのではないこと、幼児の自発的な活動である遊びや生活の中で育むこと、と明記されています。
幼児教育の特質を踏まえ、3つの柱をより具体化すると、以下のように整理されると述べられています。
知識・技能の基礎・・・遊びや生活の中で、豊かな体験を通じて、何を感じたり、何に気付いたり、何が分かったり、何ができるようになるのか
思考力・判断力・表現力等の基礎・・・遊びや生活の中で、気付いたこと、できるようになったことなども使いながら、どう考えたり、試したり、工夫したり、表現したりするか
学びに向かう力・人間性等・・・心情、意欲、態度が育つ中で、いかによりよい生活を営むか
3つの柱を置くことで、幼稚園から高校卒業までの、子どもの育ちや学びの道筋が見えてきます。資料の中では、各教科・科目の「教育のイメージ」が、幼児教育から高等学校に至るまで1枚にまとめられています。
厚生労働省の保育所保育指針の改定に関する議論のとりまとめ(案)でも、保育所保育における幼児教育の積極的な位置づけとして、3つの柱や「幼児期の終わりまでに育ってほしい姿」について触れられています。卒園後の学びへの接続を意識することの重要性についても明記されています。
このように、現在日本では親の就労形態等によって子どもが通う施設が分断されている現状があるものの、その教育内容については整合性が図られています。幼稚園であろうと、保育所であろうと、認定こども園であろうと、どの園に行っても等しく教育・保育が受けられることは、子どもの権利保障の観点から、取り組まれなければならないことだと思います。
女性が輝く社会のために、親の就労を支えるために、といった観点から、現在保育が語られがちであるように思います。園において、子どもたちが同年代のお友達と一緒に生活する中で、どのような経験をし、その経験からどのようなことを学ぶのか、その学びはその後の教育にどうつながっていくのか、さらには子どもの人生においてどんな意味をもつのかということを明確にし、発信していく必要があるように思います。保育は誰のために行うものなのか、改めて考えていきたいです。
(執筆:清山莉奈,2017年1月23日)