投稿日: Aug 15, 2018 4:15:6 AM
今年は猛暑に加え水の災害が多く、全国で被害が出ています。心からお見舞い申し上げます。
雨が多かった先ごろ、幼稚園児が傘と長靴姿で、“かえるのうたが〜♫”とうたいながら登園する姿を目にしました。
この歌は、よく「蛙のうた」と呼ばれますね。海外では日本の歌と紹介されたりしているそうです。実際はドイツのFroshgesangという歌に、岡本敏明氏が「蛙の合唱」という曲名で日本語の詞をつけたものです※1。岡本氏は、「うた」ではなく「合唱」としていました。
「蛙の合唱」は、輪唱(カノン)になっています。誰かが “かえるのうたが〜♫” と歌って次のフレーズにうつったとき、別の誰かが “かえるのうたが〜♫” と歌いはじめ、さらにその後に誰かが “かえるのうたが〜♫” と続ける・・・というように、ずらして追いかけて歌っても、きれいにハーモニーになるように作られた歌です。
こうやって歌うと、3番目の誰かが歌いはじめるころには1番目の人が “ケロッ・ケロッ・ケロッ・ケロッ・♫” を歌っており、4番目の誰かが歌いはじめるころには、1番目の人は “ケケケケケケケケクワックワックワッ♫”、2番目の人が “ケロッ・ケロッ・ケロッ・ケロッ・〜♫” と歌っています。ちょうどたくさんの蛙がいろんな声部を歌っているように聞こえます。大勢で歌うと合唱になるから、「蛙の合唱」と命名されたのでしょう。
輪唱は、年少期にはまだうまくできません。この頃はちょうど、音楽にあわせて手拍子をするような、二つの異なる行動を一つにまとめることがちょうど確立していく頃です。ですから、他の旋律を聴きながらずらして歌うというところまで行動をまとめることができるのは、もう少し先です。
でも、ちょっとチャレンジしてみて、うまくできずに「あれ~?!」となるのもいい体験です。できなくても、ずらして歌った体験を覚えていることも多いからです。
2歳後半の子どもたちと「蛙の合唱」を輪唱して遊んだことがあります。子どもたちに先に歌わせるといつの間にか後から歌う私と同じ旋律になってしまい、後で歌わせても私の先に歌っている旋律と同じになってしまいます。何度やっても、同じフレーズを歌ってしまうので、大笑いでした。
でも、数日後、「ロバの音楽座」のコンサートに行ったとき、ちゃんと、その中で輪唱している曲で「あれ?この人たちも追いかけっこしてるよ」と気付いたのです。歌の面白いところを自分たちでみつけていけるとは、なかなか素敵なことです。
ところで、「蛙の合唱」の元歌であるFroshgesangは、次のような歌詞です。
Ganze Sommer nächte lang(ガンツェ ゾムメル ネヒテ ランク・)
hören wir den Froshgesang(へーレン ヴィルデン フロッシュゲザンク・)
quak quak quak quak
kä kä kä kä kä kä kä kä quak quak quak
括弧内のカタカナの太字部分を音符に当てはめ、「・」で休みを取って歌うと、ちょうど旋律と合います。
ドイツ語で歌うと、言葉の強アクセントが生かされます。日本語訳はシンプルでわかりやすい歌詞になっていますが、一音一語なので、“かえるのうたが〜♫” と歌うと平板でややのんびりした蛙に聴こえます。ドイツ語で “ガンツェゾムメルネヒテランク・♫” と歌うと、なかなかに勇ましく行進でもしそうな蛙に変身します。ことばが違うとイメージが変わるということを知るのも面白いですね。子どもたちはどんなイメージを持つでしょうか。 大人の方がドイツ語で輪唱して聴かせると、きっと子どもたちから拍手喝采ですよ!
この歌はドイツでは実はあまり知られていません。ドイツの蛙たちにはちょっぴり残念ですね!※2
(執筆:山中 文 2018年8月1日)
注
※1 『実践的音楽教育論 –“どじょっこ”から“第九”まで −』(岡本敏明著、カワイ楽器 1967)に掲載されています。
※2 本文は、椙山女学園大学附属幼稚園子育て情報2018年7月号に掲載した内容をもとに修正加筆したものです。 http://www.sugiyama-u.ac.jp/kinder/support/info/