投稿日: Nov 07, 2018 9:36:21 AM
本書は、児童虐待の通告を受けた後の初期対応の現場で勤務する、児童相談所の児童福祉司(ワーカー)を中心とした職員の日々に密着し、児童相談所がどのように児童虐待に対応しているのか、どのような実態や苦労があり、課題があるのかを豊富な具体例を挙げて丁寧に紹介している。
保護者との関係悪化を気にしてすぐには通告してこない保育園は珍しくない。保育園だけでなく保育園を運営する自治体でも同じことがいえるケースがある。(本書135頁)
そもそも自治体には・・・要対協が設けられている・・・この「子どもを守る地域ネットワーク」の中で、保育園は重要な役割を担う。しかし、保護者との関係悪化を恐れて二の足を踏んでいるところも少ないのが実情だ・・・事務局を務める地方自治体が虐待対応に後ろ向きだと、子どもとじかに接する保育園や学校が、保護者からのクレームの矢面に立たざるを得ず、踏み込んだ対応を躊躇しがちになる・・・地域全体で子どもを守るという意識と力量をどう高めていくのか。ネットワークはまだ発展途上だ。(本書、138-141頁)
こうした保育園の対応の背景には、上述のように保護者との関係悪化の懸念や当該自治体の消極的対応に加えて、他の子どもの保護者への影響の懸念や、児童虐待に対応したことがないことによる保育者の不安などが挙げられた。
第5章では児童相談所の慢性的な人員不足の実態、第6章では先駆的な自治体(福岡市、高知県)及びNPO法人子どもの虐待防止ネットワーク・あいち<CANPA>理事長・岩城正光氏へのインタビューが掲載されている。
本書は、児童相談所および児童虐待を中心に描かれているが、徹頭徹尾、「子どもの最善の利益」をいかにして考慮し、子どもの権利をまもるのかという視点で貫かれている。子どもに関わる方には必ず読んでもらいたい一冊である。
(紹介:鶴 宏史,2018年11月1日)
目次
はじめに
第1章 一時保護の現場
第2章 子どもからのサイン
第3章 親と向き合う
第4章 地域全体で子どもを守る
第5章 児童相談所の素顔
第6章 現場からの声
あとがき