投稿日: Sep 17, 2016 5:13:54 PM
ぶん・本田いづみ
え・北村人
福音館書店
こどものとも年中向き
2015年8月1日第一刷
「おだんごぱん」と同じ、食べ物が転がってそれを誰かが追いかけるストーリー。身近で大好きな果物が転がり、さらに川を下っていくということが、子ども達にはまず魅力的であろう。
万次郎が手塩に掛けて育てたスイカが実った。「ジリジリあついなつのひ」スイカを持ち上げようとしたが、大きすぎて持ち上げられない。「はあ、こまったのう、せっかくみんなにごちそうしようとおもったのにのう・・・・」と、万次郎の考えは、みんなで食べる事が前提であることが最初から提示される。
そこから、ファンタジーが始まる。万次郎の心に呼応するように、スイカが自分で跳ね上がって畑の道を転がり始める。「みんなのところに、いってやるとするか」と、転がるのはスイカ自身の意思であることが示される。スイカの顔がそこから現れる。万次郎は、そんなことは知らずに、とにかく追いかける姿がユーモラスである。ここまでは、万次郎はスイカの栽培者であるから、その栽培物であるスイカに対しては主人の位置づけである。
やがて、スイカは川にたどりついて水の中に飛び込む。万次郎も後を追って水の中へ入ると、立場が逆転する。スイカは、泳げない万次郎を助けてやって、さらに歌まで歌って流れていくという余裕まで見せる。
スイカにつかまって流れている万次郎を見つけたお百姓は、なんとか助けようと考えるが逆に川にはまって、いっしょに流れていくことになる。釣りをしていたおじさんも同様にスイカに助けられることになる。3人が同じ失敗を繰り返す、昔話ではよく登場する定番の筋である。間の抜けた表情の男達とは対照的に、「どうだ」とばかりにきりりと引き締まった表情のスイカが対照的に描かれて、面白い。
ここからストーリーは新しい局面に転換する。すいかに掴まった大人の男三人を見つけた子ども達は、その情景を遊んでいるものだと解釈して、自分たちも川に飛び込んで川流れに参加する。すいかを先頭に、人間が8人連なった川下りが始まる。スイカは上機嫌で得意の歌を歌う余裕を見せる。川下りでの時間の経過が、スイカがしっかり冷えていくことと繋がる構成である。
スイカが川の浅瀬まで来ると、それっきり黙ってしまう。ファンタジーは終了したのだ。スイカの表面の顔も消える。主従関係は、ふたたび万次郎が主人に戻る。
結末は、万次郎とスイカが最初に願った「みんなで食べる」ことが成就し、めでたしめでたしと定番の大団円となる。 「ジリジリあついなつのひ」から繰り広げられたスペクタクルは、みんなで夕日に向かって歩いて帰るシーンで終わる。表紙裏がスイカ色になっているのが嬉しい。
(紹介:清流 祐昭,2015年7月17日)