Chapter 23 Risk and Resilience in Development
Ann S. Masten (2013).
pp579~586..
本章では、タイトル通り、発達過程におけるリスクとレジリエンスについての研究を概観しています。「レジリエンス」という用語は、弾力性や立ち直る力という日本語に訳すことができますが、すでにわが国でもレジリエンスという片仮名用語が定着しつつあります。
「レジリエンス」とは、「安定性、生存能力(viability)、あるいは発達を脅かす重大な課題に、耐えたり回復したりするための力動システムの能力である」と定義され、一方、「リスク」とは「特定の好ましくない結果の高い可能性」と定義され、例えば虐待などが例としてあげられます。
発達におけるレジリエンス研究は、1980年代以降、学問的な統合がなわれ、発達精神病理学の台頭により、リスクがある子どもの前方向視的研究や縦断的研究が盛んになされ、リスク要因や防御要因の解明が進んできました。
本章では、この発達精神病理学的な視点に立って発達におけるリスクとレジリエンスの関係について論じています。
この章では、子どもと若者におけるリスクとレジリエンスについての50年にわたる研究の知見を、機能や発達にとって重大な脅威をもたらすような状況におけるポジティブな適応を中心に取り上げる。
リスクとレジリエンスに関する発達研究の起源については簡潔に概説し、続いて中心概念を定義し、この一連の研究を導く主要な理論を図解しながら概観する。レジリエンスのための促進要因と防御要因に関する知見は、子どもと若者に関する多様な研究にわたって著しい一貫性を示しており、基本的な適応システムが逆境(adversity)という文脈において人間の適応や発達を支えたり保護したりすることを示唆している。分子遺伝学、神経科学、力動的な相互依存システムの研究手法における刺激的で新しい科学技術や科学進歩は、リスクとレジリエンス研究のための新たな領域を開いてきた。
今後のレジリエンス研究の高まりは、レジリエンスの神経生物学的なプロセスから大規模災害を乗り切るための準備に至るまで、多様なレベルでの分析と統合に焦点が当てられている。
キーワード:リスク(risk)、レジリエンス(resilience)、自己制御(self-regulation)、発達精神病理学(developmental psychopathology)、ストレス( stress)、介入( intervention)
レジリエンスは一般システム概念であり、重篤な障害に耐えたり回復したり、健全で規範的な方法で機能や発達を続けるための力動的システムの処理能力のことである。
促進要因は、リスクの水準にかかわらずポジティブな発達を予測する。
防御要因は、適応や発達を脅かす状態において特別な役割を果たす。
子どものレジリエンスのほとんどが、人類生物学と文化において進化してきた基本的な適応システムの働きに起因する。
子どもにとって最も脅威となるリスク要因と逆境は、人間発達のための根本的な防御システムにダメージを与える類のものである。
適応的に低リスクの子ども(コンピテント)とハイリスクの子ども(レジリエント)は、多くの共通する利点を共有している。
子どもの発達とレジリエンスのための基礎的な心理社会的適応システムは、愛着と効果的な養育、学習と問題解決、熟達の動機づけ(mastery motivation)と自己効力感、自己制御、信念の意味形成システム、これらのシステムを育む学校や宗教のような組織と文化的実践、を含んでいる。
レジリエンスは今や、人の分子レベルから環境における生態系レベルまで、多様な分析レベルで研究されている。
適応システムは、神経学的レベル(例えば嗜癖依存)や行動レベル(例えば不良グループのボスに対して密着した愛着)で乗っ取られる可能性があり、それらは不適応な結果を導く。
予防実験は、良好な変化のために推定される促進的あるいは防御的な過程を目標に定めることによって、レジリエンス理論を検証するための説得力のある方略を提供する。
(発表担当者および発表日:新開よしみ・遠藤夏美・小泉かおる/2014年10月)
(まとめ:白川佳子)