投稿日: Apr 04, 2017 9:54:6 AM
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Feeney, S., Freeman, N.K. & Pizzolongo, P.J.
NAEYC
2012
全米乳幼児教育協会(NAEYC)は、1989年に、保育者の倫理綱領である「倫理綱領および責任声明」(Code of Ethical Conduct and Statement of Commitment;以下、「倫理綱領」)を策定した。その後も、NAEYCはこの「倫理綱領」に関して、1992年、1997年、2005年に改訂を行い、2011年には更新(文言の追加および修正)を行った。
「倫理綱領」の策定に伴って、その解説書も出版されるとともに、NAEYC倫理綱領改訂に従って解説書も数回改訂されている。その最新版が、今回紹介するEthics and the Early Childhood Educator : Using the NAEYC Code (Second Edition) である。
本書の第1章~第3章は、保育者にとっての専門職としての価値や専門職倫理および「倫理綱領」の重要性、NAEYC倫理綱領の歴史、保育者の倫理行動と倫理的意思決定の基本的考え方や手順、「倫理綱領」の活用の仕方などについて述べられている。第3章では、以下の事例を用いて、倫理的ジレンマ(「倫理綱領」に示される複数の価値・倫理間の葛藤)の解決過程について解説している。(59頁)
Timothy(4歳)の母親であるCathyは、彼の担当保育者のFrancesに対して、Timothyが午後の昼寝の時間に眠らないように求めた。彼女は「息子が昼寝をした時はいつも22時まで起きている。私は5時に起床して、働きに行っている。十分に睡眠をとれない」とその理由を述べた。子どもの休息に加え、Timothyはほとんど毎日1時間の昼寝をしている。Francesは、Timothyの午後の精神的安定のためにも昼寝は必要と伝えている。
解決過程については省略するが、本書においてその過程はフローチャート化されている。
続く第4章~第7章にかけては、「倫理綱領」の4つの領域(子ども、家族、同僚、地域・社会)に対応させて、保育者の倫理的責任について論じるとともに、保育者が直面すると考えられる倫理問題や倫理的ジレンマに関する精選された事例と質問が提示されている。最後の第8章では、「倫理綱領」の重要性の再確認、「倫理綱領」がどのような効力を有するのかなどについて言及されている。
本書が、我が国の保育者の倫理綱領やそのガイドブックと異なるのは、保育現場における問題について、法的問題なのか、倫理問題(倫理綱領に反するもの)なのか、倫理的ジレンマなのかを明確にするともに、ジレンマが生じることが前提となっている点である。さらに、用語の定義もしっかりとなされている。ただ、逆に「倫理綱領」は改訂のたびに項目が増えておりマニュアル化の方向に進んでいるのではないか(この点はアメリカにおいて他の専門職の倫理でも指摘されている)という批判もある。
いずれにしても、本書は我が国における専門職倫理に関する研究や実践に示唆を与えるものと考える。
(紹介:鶴 宏史、2017年3月26日)
目次
はじめに
第1章 道徳と倫理の序論
第2章 NAEYC倫理綱領
第3章 倫理問題への取り組み
第4章 子どもに対する倫理的責任
第5章 家族に対する倫理的責任
第6章 同僚に対する倫理的責任
第7章 地域と社会に対する倫理的責任
第8章 倫理綱領は生きた文書である
参考文献
補遺
推薦図書