投稿日: Sep 19, 2016 5:51:28 AM
音楽理論について、すっきりと腑に落ちるように書かれている本です。
音楽関係者向けの理論書と思われそうですが、ひとつひとつの文章やとりあげられている事象は、一風変わっていて、でも頷けます。
たとえば、この本では、音楽の基礎は音ではないことを確認することからはじまります。「すべての音は、発せられた瞬間から、…静寂へと向う性質をもっている。…音は終局的に静寂には克つことができない。…静寂はこれらの意味において音楽の基礎である」(2−3頁)
記譜法の項では、モーツァルトのバイオリンデュエットの楽譜が紹介されています。この楽譜は、上下さかさまから見ても演奏できます。つまり、テーブルの上にこの楽譜を一枚置いて二人が差し向かいにすわり、お互いが自分の側から楽譜を見て同時に演奏をしていっても、ちゃんと音楽になるのです。この時代のお茶目な作曲の様子が目に浮かびます。
ピュタゴラスは、ドレミファソラシドの音階のすべての音の音程を弦の比で導き出しましたが、どうしても、その計算で元の音にもどることができませんでした。ピュタゴラスの方法では、元の音にもどる計算は531441/524288となり、比が1にならないのです。この本では、音階の項でこのことが淡々と書かれ、「くわしくは自分で計算してごらん」と言わんばかりに、ピュタゴラスが音程を割り出していった音符が並べられています。ピュタゴラスの苦悩が思い浮かび、紙と鉛筆をもってきて計算をはじめたくなります。
あまりにシンプルに書かれているため、わかりにくい部分もありますが、40年間、出版され続けている力はすごいです。子どもたちに音楽活動を組む前にご一読をおすすめします。
(紹介:山中 文,2015年7月31日)