投稿日: Dec 06, 2017 12:53:56 AM
息子が2歳の頃の記録からです。
『あめふりくまのこ』(鶴見正夫作詞、湯山昭作曲)をよく歌っていました。母親が寝かしつける時に歌っていた歌のひとつでもありますが、自分一人でもよく歌って遊んでいました。
たとえば、2歳2ヶ月頃、ある時、机のすみにもぐりこんで、『あめふりくまのこ』の楽譜と挿絵が載っている絵本をひざにかかえ、そのページを見て、手でパタパタと絵本をたたきながら歌っていました。ふと、歌をやめると、挿絵で熊の子が後ろ姿を見せている部分を指しながら、「 ♬おやまにあーめがふりましたあ♬ は帰っちゃったんだねえ」と絵本に向かって言っていました。きっと、『あめふりくまのこ』の中で挿絵の後ろ姿の熊の子と遊んでいたのでしょう。
ある時は、同じ絵本を見ながらでしたが、声をはりあげて、♬おやまにあーめがふりましたあ、あとからあとからふってきてー・・・・♬ と歌っていて、今度は絵本のページの隅っこにちらと顔だけのぞかせている熊の子を見つけて、熊の子に向かって「かくれんぼうだあ、いないないばあ!」と、「いないないばあ」をしていました。「いないいないばあ」だからなのか、同時に絵本をパタッと閉じてしまい、元のページがわからなくなって困ってしまったことでした。
ものに対する感情移入は、2歳児によく見られることかもしれません。私にとっておもしろかったのは、挿絵の熊の子に対して、「くまちゃんは帰っちゃったんだねえ」ではなくて「 ♬おやまにあーめがふりましたあ♬ は帰っちゃったんだねえ」と歌の節つきで言ったり、歌の途中で「いないいないばあ」をしたりすることでした。歌も遊びの中にあるのだなあと思えたからです。
『あめふりくまのこ』の歌の遊びは、もう少し経つと少し変わってきました。
2歳5ヶ月の頃、雨が長く続いたある日のこと、窓の外の雨をながめながら、また 『あめふりくまのこ』をうたっていました。1番を歌ったあと、今度は、改変して歌いました。♬おやまにあめがふりました ざあざあざあざあふってきて ざあざあざあざあざあふってきて おやまにあめがふりました ざあざあふってきて ちょろちょろおがわができました♬
このうたは2拍子ですが、♬ざあざあざあざあざあ♬の部分は5拍入っています。確かに、窓の外は、ざあざあと表現したいほど雨がよく降っていました。
よほど窓の外の雨が気になっていたのでしょうか。このあと、2〜4番をすっとばして、5番の ♬なかなかやまないあめでした♬ にうつっていきました。思わずいっしょに5番を歌いはじめますと、「ママは言っちゃダメよ」と言われました。その後、しばらく窓の外を眺めて歌いかけそうにしていましたが、結局このあと、彼は続きを創作することができず、他の遊びにうつってしまいました。
『あめふりくまのこ』の♬おやまにあめがふりました あとからあとからふってきて ♬ という表現は、この時の彼の気持ちによく沿ったのでしょう。そして、雨が降っている状況や心情を歌に重ねていっていたのでしょうか。私は余計な口出しをしてしまいましたが、歌が気持ちに寄り添っている様子が面白いことでした。
この時終わりまで行き着かなかった創作は、その後、別の歌で完結することができました。
2歳7ヶ月のある日、お風呂から出て気持ちよくおもちゃの太鼓をたたいていたので、ちょっとリクエストしてみました。
「歌もいっしょにうたってちょうだい」。
すると、「何の歌?」と問い返しながら、『もみじ』(高野辰之作詞、岡野貞一作曲)を歌ってくれました。やはり、太鼓をたたきながらです。『もみじ』は歌詞がむずかしいのでたどたどしかったのですが、なんとか歌いおわり、今度は『たなばた』(権藤はなよ作詞、林柳波補詞、下総皖一作曲)にうつりました。
♬ささのは さらさら のきばにゆれる おほしさまき〜らきら そらからみてる♬
(* ♬そらからみてる♬ 部分は、正しくは ♬きんぎんすなご♬ )
1番が終わったので、「じょうずだねえ」とほめると、2番になりました。
♬ごしきのたんざく わたしがかいた おほしさまキラッキラッキラ〜 きんぎんおほしさま♬
(* ♬おほしさまキラッキラッ キラ〜♬部分は、正しくは ♬おほしさまき〜らきら ♬ 。
♬ きんぎんおほしさま ♬ 部分は、正しくは ♬ そらからみてる ♬ )
大きな変化があったのは、この2番です。太鼓をたたいていたのは、1番の途中からたたいたりバチ同士を打ち鳴らしたりと変化してきていたのですが、2番はバチ同士を打ち鳴らすだけにしていました。そして、♬おほしさまき〜らきら♬ の歌詞を ♬おほしさまキラッキラッキラ〜♬ と変えると、バチを置き、両手をヒラヒラさせはじめました。そして、♬そらからみてる♬ で、ジッと両手を見ながら歌い、続けて両手をあげ、ヒラヒラさせて次のように加えたのです。
♬おほしさま〜が〜キラッキラッ♬
ソソソソド- レ- ミミ ミミ
歌いおわると、「決まった!」と言わんばかりに、私の方を見て、ニコッとしました。
太鼓をたたいていたのをバチに変えたのは、それが歌のイメージが合わないと感じたからなのかどうか定かではありません。しかし、歌詞を ♬ キラッキラッキラ〜 ♬ に変えたあたりから両手のヒラヒラ表現が気になりはじめたようです。最後に♬ おほしさま〜が〜キラッキラッ ♬ と創作し、一緒に動作を行ったことでとても満足した様子でした。
確かに、歌の途中の♬ おほしさまキラッキラッキラ〜♬ は、メロディーは ♬ ミーミミソーミーレードドラー ♬ と音程が下がっていきますし、♬ そらからみてる ♬ は♬ドラソドレミド♬と低くまた下降して終わりますので、ヒラヒラの動作が合いません。最後に両手をあげてヒラヒラさせると同時に ♬ キラッキラッ♬ と音程をあげて歌ったことで、表現が締まったのでした。
2歳児は、既成の歌を既成のものとして覚えているのではなく、一部分だけでも自分のお気に入りの表現のストックとして持っているふしがありますので、途中から変化することはごく普通のことですが、この創作はなかなか面白いものでした。ちゃんと着地点を創作しているからです。
「003 2歳児の歌の「事故って毛虫だからねえ」的渡り歩き」でも、『クラリネットをこわしちゃった』の歌から『犬のおまわりさん』に移行して着地した、という例をお話ししました。その時は、歌は途中でわからなくなっていました。それに対して気を取り直すかのような解決でした。今回の『たなばた』は、途中から彼なりのイメージでアレンジし、そのイメージをもとに着地の表現を創作したのです。なかなかの創作ぶりです。2歳の頃の歌の遊びは、その1年間だけとってもずいぶんな成長をとげることがわかります。
歌の中のくまちゃんと遊んだのも、雨降りの心情を表現したのも、おほしさまのキラキラから表現をつくっていったのも、彼が『あめふりくまのこ』の歌や『たなばた』の歌あるいは表現を、歌ってくれた人とのかかわりと一緒にストックしていたからこそでしょう。
太鼓をたたく表現やキラキラの表現も見知っていることを組み合わせて創ったり変化させたりしていました。お風呂を出た時、おもちゃの太鼓をたたいていたのは、保育所で、先生方が夕涼み会の太鼓練習をしていたのをみていたからのようです。その頃保育所に迎えに行くと、所内からどんどこどんどこと太鼓の音がよく聞こえたものです。彼は、バチでたたきながら、「どんどこどーん」と威勢良く言ってまねをしていました。そんな太鼓の演奏から、歌をリクエストしたのは少し酷だったかもしれません。それでもリクエストにこたえていくうちに、『たなばた』の歌が太鼓と合わないと感じたのか、あるいは♬きらきら♬という歌詞にヒントを得たのかわかりませんが、表現を変えました。手をヒラヒラさせる表現を思い出したからでしょう。でも、もし、♬きらきら♬を表現するものとして手をヒラヒラさせる以外のことを知っていたら、もっと違う表現になっていたかもしれません。
こうしてみると、見知った歌や音の表現が、この頃の子どもにとって、気持ちに寄り添ったり、表現や遊びになったりするもとになっていることかわかります。その頃の子どもたちにとって、どんな歌がいいのか、どんな音を聴かせるのか、どんな表現を示すのか、大人の責任の重大さを感じます。
(執筆:山中文 2017年12月4日)