投稿日: Sep 19, 2016 1:14:33 AM
著者は経営コンサルタント。産業再生機構、オムロンその他の社外取締役。鬼怒川温泉、みちのり(岩手のバス)などの再生にも取り組んだ。
日本は高齢化により生産労働人口が減少し、しかし需要は徐々に減るので、供給不足(人手不足)が起こり、現在の経済状況を作り出している。多くの地域のサービス産業は労働集約的なので人手が足りなくなる。そこで、世界を相手に商売し競争するグローバル企業(G型)と、地域の仕事を受け持つローカル企業(L型)では戦略はまったく異なる。日本のGDPの7割を後者がしめるのであり、その活性化こそが重要である。本書の議論の中心はL型にある。そこに国内向けの企業や教育・福祉の仕事の大半が含まれる。(中小企業でも世界的マーケットでの商売ならG型となる。)
医療、介護、保育などの社会福祉サービス、教育、公共交通など、何らかの公共性のあるサービス産業は、今は地域経済における基幹産業になっている。 公共サービスである以上、国家が国民に対して最低限度の生活の保障(ナショナル・ミニマム)をしている。もともと官製市場なので、競争市場の規律は完全には働かないし、働かせることもできない。物事を効率的にするのには限度がある。医療や介護も同じで、すべての問題を市場で解決しようとしても無理がある。結局、政府がある種の介入をする規制市場、官製市場にある程度ならざるを得ない。したがって産業としての生産性、特に賃金に大きな影響を与える労働生産性は、規制のデザインや市場のデザインの巧拙に大きく影響を受けてしまう。 もう一つの規定要因としては、バス、タクシー、鉄道、小売り、飲食、そして社会福祉サービスなどの対面型のサービス産業は、・・・「密度の経済性」が強く効いてしまうことだ。ローカル経済圏のビジネスの多くは、そこにいること自体が比較優位になる。地域に密着して、地域で密度をつくっていることが優位性になるので、もともとそこにいるローカルプレイヤーのほうが絶対有利になる。
まずやるべきことは、やはり地域のなかでしっかりとした経営をしている企業に事業と雇用の集約化を進めること。そのうえで、健全経営を営々と続けることがポイントだ。そのためには、一方で必ず退出が起こらなければならない。次のポイントは、退出を穏やかに進める方法になる。 人手不足に陥ったローカル経済圏のマーケットで穏やかな退出を促進する鍵は、労働市場にある。 ・・・・・・ 穏やかな退出を促すためには、労働市場での規律を厳しくすることが唯一の有効な方法になる。 具体的には、サービス産業の最低賃金を上げることだ。あるいは賃金がどんどん上がってきて、弱い事業者が悲鳴を上げたときに、そこに救済の手を差し伸べないことだ。」 ・・・・・・ 労働監督、安全監督を厳しくすることも有効だ。 ・・・・・・ 問題は、企業退出が従業員や地域に与えるショックや経営者やその家族の人生と生活の破壊を回避できるような、穏やかな退出を進められる環境を整えることだ。
経営陣は,資本を預かる立場の人の代表と、公益に資する人の代表で構成される。利益が出たときにどれだけを資本投資に回し、どれだけを内部留保に回すかを客観的に見られるようにする。この仕組みを導入することによって、ローカル経済圏の規律としてまったく効果のなかった資本市場の規律を有効にできるのではないだろうか。
Lモードの企業群のKPI(主要業績指標)に、・・・・・・労働集約的で雇用吸収力が高いという意味でも、また社会性の高い業務を従業員たちにちゃんと遂行してもらうための待遇保証という意味でも、ここで最も重要な指標は、労働生産性(単位労働時間あたりの付加価値生産性)のほうなのである。これが高いほど、より賃金をあげられるし雇用も安定化する。それは地域経済の消費という形で好循環を生み出せる。また、労働条件も良好にできるので、業務の安定性や安全性も高めることができる。
ここでのキーワードも集約化である。集約化とは「コンパクトシティ化」だ。 ・・・あらゆるところでの集約化になる。企業も優秀な会社に集約化し、雇用もそこに集約化する。それとともに人もコンパクトに集約化していかなければ、最終的には公共サービスで弊害が出る。
自分の仕事にどれだけ矜恃が持てるか。 この思いが,職場の規律を維持するうえで大切な要素になる。矜恃を持つことができて、それほど生活に困らない安定した収入があれば、自分なりの幸福感をつくっていける。おそらくそれが、これからのローカル経済圏のゴールになる。 この過程で、平均的な収入を得ることができて、普通に結婚し、夫婦で子どもを一人か二人を無理なく育てられる社会をどのようにしてつくっていくか。このことを考える方が、はるかにローカル経済圏に住む人々の福利に貢献する。
よくよく考えるに値する豊富な事例と議論を提供してくれていると思います。
(紹介:無藤 隆,2014年11月13日)