投稿日: Nov 07, 2019 5:22:50 AM
本書は、福祉現場での活用を念頭に置いた「動機づけ面接(Motivational Interviewing:MI、以下MIと略記)」の入門書である。
MIは、ウィリアム・M・ミラーとステファン・ロルニックによって開発された、アルコール依存症患者への支援を目的とした面接法で、「変わりたいけど、変わりたくない」という、本人が抱えている相反する気持ちを解消し、変化に対する動機を高めるための面接方法である。本書では、ミラーとロルニックによるMIの3つの定義を紹介しているが、ここでは技術的な定義を示す。
動機づけ面接は、協働的にゴールを目指していくコミュニケーションであり、特にクライエントが語る変化に関する言葉に着目している。受容と思いやりの雰囲気のなかで、変化への理由を探っていきながら、人々の変わろうという動機を高めていく面接である。(本書8頁)
本書では、MIの基本的姿勢、MIの進め方、MIの技法、動機の高め方について論じられているが、MIの基本的姿勢や進め方、技法については多くの心理療法、カウンセリング、面接法との共通点が多いので、ここではMIに特徴的なものや着目点について紹介する。
基本的な理念・姿勢として「協働」、「受容」、「思いやり」、「喚起」の4つが示されるが、前三者は聞きなれているだろう(それぞれの頭文字をとってOARSという)。喚起とは、変化に必要なものは本人の中にあり、支援者はそれを一緒に探し引き出そうという考え方である。
変化を引き出すための中核的な技法として、「開かれた質問」、「是認」、「聞き返し(繰り返し)」、「要約」がある。これらも基本的な技法であるが、是認はあまり聞きなれないかもしれない。是認とは、本人のこれまでの努力や相手の強みを認めて返すことである。
そして、MIでは変化の動機を高めるために、チェンジトークに着目し、それを引き出しながら面接を進めていく。チェンジトークとは、「クライエントが『変化したい』という気持ちを表明したときにでてくる発言」(本書116頁)である。その逆が維持トークである。例えば、「健康のためには走ろうと思うんだけど、朝起きるのが面倒くさい」という発言があった場合、「健康のために走ろうと思う」がチェンジトークであり、「朝起きるのが面倒くさい」が維持トークである。
維持トークに着目すると、できない理由を聞いて解決してあげようのスタイルになってしまい指示的になり、相手の動機が高まりにくくなる。そのため、支援者は、相手の発言からチェンジトークを見つけ出し、引き出し、相手の「変わりたい」という動機を強化していくのである。
代表的なチェンジトークとして7つ挙げられている。
(1)願望を表明している発言:「~したい」等の発言
(2)能力を表明している発言:「~できる」等の発言
(3)変化したい理由を表明している発言:「~という理由で~する」等の発言
(4)変化の必要性を表明している発言:「~する必要がある」「~しなければ」等の発言
(5)変化を約束する発言:「必ずやります」等の発言
(6)気持ちが固まってきたという発言:「~までにやろうと思う」等の発言
(7)次の段階に進んだという発言:「先週~した」等の発言
これらのチェンジトークを前述の技法を用いながらさらに引き出していき、ゴールに向かっていくのである。
2018年に『リフレーミングの秘訣-東ゼミで学ぶ家族面接のエッセンス』(東豊、日本評論社)を紹介し、家族の力を信じることの重要性を挙げたが、MIにおける「喚起」の姿勢はそれと共通している。チェンジトークに着目することは、ストレングスの視点とも共通し、さらに具体的にしたものといえる。
本書は、子育て支援・保護者支援のみならず、同僚への支援にも活用できるだろう。 ここでいう同僚への支援というのは、特に、園長・主任から担任の支援や指導、先輩から後輩の支援や指導を意味する。保育をする中で「(現状は○○だけど)~といったことをしてみたい。だけど~からできない」「(現状は○○だけど)~なことを変えていく必要があると思う。だけど~からできない」というような発言があった状況で、「~といったことをしてみたい」「~なことを変えていく必要があると思う」というチェンジトークを引き出し、保育や職場環境の変化を引き起こし、専門性や保育の質を高めることに寄与できると考えている。 なお、本書の内容についてより深く学びたい場合、下記の文献がおすすめである。
ウィリアム・R・ミラー、ステファン・ロルニック著、原井宏明監訳(2019)『動機づけ面接 上・下(第3版)』星和書店
原井宏明(2012)『方法としての動機づけ面接』岩崎学術出版社
(紹介:鶴 宏史,2019年11月1日)
目次
まえがき
第1章 なぜ、面接がうまくいかないのか?
第2章 クライエントの気持ちを理解する
第3章 動機づけ面接の進め方
第4章 OARZ(オールズ)
第5章 クライエントの意欲を引き出していく
引用文献・参考文献等
あとがき