投稿日: Sep 19, 2016 12:50:34 AM
言うまでもなく、かの有名な陰山先生の本。だいぶ前のものですが、主張が鮮明なので、紹介します。
自分の考えを簡明に書いていて、帯には「教育の常識、8割は間違っている!」とありますが、そういったものではないと思います。教育学といっても教育心理学や教育社会学は実証的だから、この本に書いているの一つ一つはおおむね昔から言っていたよということが多いでしょう。とはいえ、まとまると迫力があります。
以下、要点を示します。括弧内は私の疑問点です。
百ます計算で子どもたちが自信を持ち、やる気が出てくる。知能を伸ばす。(知能を伸ばすというデータは疑問がありますが。集団式知能検査は多少集中して解く訓練をするとすぐに点が上がります。むしろテストへのやる気と集中力をつけたの...ではないでしょうか。)
学力の底辺には健全な生活習慣があり、その上に基礎基本の学習と読み書き計算のトレーニングがあり、さらにその上に多様な学習がある。(まさにそう思います。)
日本の学習指導要領は問題点もあるが、基本的には系統的で、よい。
不登校は朝早く起きる習慣と基礎学力をつけることでなくなる。(それは大事な要因ではあるけれど。そう簡単ではないことも多そうだが。)
東京大学は国立だから安上がり。「家庭の経済格差が、教育格差に直結する」という常識が間違っているのは明らか。(これは違うのではないでしょうか。経済格差を問題にする人は重要な要因として挙げているのであり、直結ではないし、それに受験勉強に金を掛けられるかどうかを指摘しているのです。)
「ゆっくり丁寧にやれば、わからない子も理解できる」という常識が信じられている。(そういう思いこみがあるかも知れませんが、教育心理学者は時間を掛けることと指導の工夫の双方を言っています。特に分からない点を見つけることが大事だと指摘しています。また、読みや計算といった基礎課程はスピードが大事だということの心理学の実証研究はたくさんあります。)
怠けない、人(自分も)の心と体を傷つけない、嘘をつかないという約束が大事。(それはその通り。)
体育が大事。自信と向上心が芽生える。(これもその通り。)
子どもの間違っているところを早期に発見して穴をふさごう。(これが教育心理学で長年言ってきている診断テストとその治療的教育です。)
基礎基本の先の面白く子どもにとってプラスになる授業が大事。例として、運動会のピストルの音を遠くに立った子どもが順番に聞こえたところで旗を上げることで音の伝達の実感を持たせるという授業を工夫したそうです。(面白い実例です。習得と活用と言っていることにまさに該当します。)
私としては次のことを考えました。
日本の教師はもっと「学習のテンプレート」(byMuto)を重視した方がよいと思います。習得すること自体ではなく、習得することが次の活用段階での理解した知識を配置するマップになるかです。都道府県名の習得がその例になります。漢字の読み書きが素早くできることで文章を読み上げる枠がまず出来て、そこに理解を入れ込めます。計算技能は例えば足す数・足される数・答えという枠を作ります。それが習得段階で出来るとそこに活用で得るところの諸々の知識を配置して、組織化していけます。
実をいえば、何でもよいから、素早くやるように繰り返せば、計算技能は身につきます。問題の提示順序によらないようにランダムに問題を出して素早く回答するやり方は何であれ有効です。ただ、勉強の習慣が出来ることがそれ以上に大事なのでしょう。
蔭山さんの提唱するやり方への賛否はいろいろとあるのでしょうけれど。この本を読む限り、普通のことであるように見えます。本だから反応を考慮して、極端にしていないということなのでしょうか。あるいは私が訓練的なものに賛同する立場だからでしょうか。でも、教育心理学の80年ほどの研究の積み重ねの歴史でそうなのだから仕方ないです。念のために言っておくと、基礎課程の訓練と意味理解とかその他と全部重要だという意味ですが。
(紹介:無藤 隆,2014年10月12日)