2016.4.25
無藤 隆 子ども学研究特論(3)
第6章 質的研究の理論的枠組みの各種と論争
テキスト The SAGE Handbook of Qualitative Research, 4th ed. SAGE.
p.102~115 表6の5
次回以降は具体的な研究の手法を解説していくが、今日は、質的研究の理論的枠組みをそれぞれ取り上げ、それらの論争について解説する。
表6の5は、横軸に質的研究の大きな枠組みを5種類に分けている。「実証主義(positivism)」、「ポスト実証主義(postpositivism)」、「批判的理論その他(critical)」、「構成主義もしくは解釈主義者(constructivism or interpretivist)」、「参加型(participatory)」である。
これらの用語の訳語については、前回文献紹介した中で、フリックのものが一番標準的である。
ポジティリズムは、実証主義と訳す。つまり、リアリスト、実在主義者、自然科学の研究者のことである。
ポスト実証主義は、実証主義の後に出てきたという意味である。実証主義の形態を変化させたもの。
批判的理論は、フェミニズムと人種的批判論を扱う。批判的(クリティカル)とは、権力によって抑圧されている人のために現実を変えようとしていること。
コンストラクティズムは、構成主義、構築主義、インタプリティビストは、解釈主義(もしくは解釈主義者、解釈論者)と訳すが、訳者によって訳語が異なる。主観的な見方を解釈することによって、理解しようとすること。解釈は、解釈者の主観的な営みであり、それを世の中に生きている人たちは互いに解釈しあっている。
パーティシパトリーは、参加、参加的、参加型と訳す(かっこ内は、ポストモダン)。参加型というのは、研究者と対象者(サブジェクトを訳すのは難しい、心理学では被験者というが、研究対象者のことである)との間の民主的な参加関係に基づく。研究者と被研究者が対等な民主的関係にあることを重視し、かつ、その関係に依りながら、相手のためになることをすることである。
以上の5つの理論の分類は、以前は打ち解けられない対立関係にあったが、この十数年、この分類は相互交配を始め、純粋に特定の立場に立つ人はあまりいない。
今日は、それぞれの理論の定義づけや論点ごとに説明していくが、その説明はかなり重複している。そして、それぞれの説明には関係ある文献を挙げている。
リンカンとギューバ(Lincol & Guba)が、比較的右寄りの批判的構築主義的でラディカルな質的研究を率いてきた。しかしながら、他の人が整理するとニュアンスが違う位置づけとなるかもしれない。
まず、「存在論(ontology)」、「認識論(epistemology)」、「方法論(methodology)」というオルタナティブな探究パラダイムの基本的信念から、それぞれの研究理論を定義づけていく。
A. オルタナティブな探究パラダイムの基本的信念(Basic Beliefs(Metaphysics) of Alternative Inquiry Paradigm)
1)存在論(ontology)
オントロジーは哲学用語であり存在論と訳すが、物事が世界においてどのように存在しているかと定義される。
① 実証主義
実証主義においては、単一の特定できる真実を信じている。研究の目的は、自然を予測し、コントロールするものである。この世界には確固たる現実があり、それを追求している。
古典的な自然科学であり、それをそのまま社会に研究に持ち込んだものである。心理学者にこの立場の人が多い。
② ポスト実証主義
実証主義の修正版である。自然とは十分に理解しえないものである考えている。一つの現実はあるが、それを人間たる我々は、真実に近づくことはできたとしても、どうやって到達できるかを十分には理解できない。どうしてかというと、自然物には、絶対的なモノはないし、常に未知なものである。実証主義の考えでは、科学的な方法を使えば到達できるよというだろうが、ポスト実証は、接近はできるが到達はできないという考えである。だが、いろいろな方法を組み合わせることによって浮かび上がられるのではないか。
ある意味、常識的な見方であり、研究者ではこの立場に立つひとが一番多いだろう。
③ 批判的理論
クリティカル(批判的)というのは、実証主義やポスト実証主義の真反対の考え方である。どこが違うかと言うと、この世界というモノは権力、闘争が存在し、その権力は不公平にできていて、抑圧する側とされる側がいる。抑圧する側は特権を持っている。たとえば、人種差別、民族、階級、ジェンダー、あるいは、身体的能力知能、あるいは、性的好み、それによって、抑圧する側と従う側が分かれている。この力関係をどうひっくり返すかがこの理論の目的である。。
④ 構築主義
相対主義。それは、人によって、社会、文化、歴史によって物の見方が変わる。どれが正しいというのはない。だから、現実はあるが、それは、さまざま多様な、心の中の構成、構築によるものである。人間が作り出すものであり、それは勝手に作るものではなく、社会的に作られる。ローカル(地方的)であり、地域ごとに人によって違ってくる。考える人によって違ってくる。現実はそれぞれの人の見方によって変わってくるのである。
⑤ 参加型
現実というモノは、そこに生きている人たちが作っているものである。そこに住んでいる人の認識というものは、主観的でもあり、客観的でもあり、新しい認識は、その人たちが現実とどう結びつくか、作り変えていくこと。この立場は、研究する人たちにとって意味がある。コミュニティに暮らしている人たちが、周りを捉える見方を変えていくことが大事である。研究者だけがもっている知識や研究だけが得られる知識を否定し、コミュニティの人たちがよりよい暮らしができるように、望むことを叶える。そういう意味では、割と実際的な考え方である。現状批判的であり、社会批判的でもある。
2)認識論(epistemology)
認識論とは、その知識に到達する思考の過程である。その原理原則を認識論という。
① 実証主義、②ポスト実証主義
実証主義の部分は、現実という確固たるものがある。それと切れた形で、離れたところに研究する人がいる。
例えば、月や星を観察すること場合、月は月として星は星としてあり相互作用はない。いかによい性能の望遠鏡を開発するかということになる。動物研究においても、動物の生態を知るためには、鯨が太平洋でどう暮らしているのかを、なるべく邪魔しないで客観的に観察する。それが実証主義の基本的な立場である。
質的研究は、人間から構成された社会を研究するのだから、そうはうまくいかない。同じものを研究していても、人によって、道具によって見方が違うし誤差が大きい。なるべく本当のこと・妥当性を知りたいので、できる限り相手に干渉しない方法で情報を引き出さないとならないだろう。相手との相互作用をゼロにはできないので、影響の与え方をできるだけ少なくするのである。
例えば、アンケート調査をするときに、誘導質問をしてはいけない。去年の話題でいうと、
特定の法律に対する世論を集めるときに、安保法案が典型的だが、聞くのは客観的だが、それに対して、「いわゆる戦争法案がありますが…」というと、バイアスがかかってしまう。また、「日本を安全に保つための法律…」というのもバイアスとなる。バイアスはゼロにできないにしても、できるだけバイアスをゼロに近づけていき、少しずつ真実に近づいていくようにする。
③ 批判的理論
現状は抑圧されているが、そういう社会構造を変えなければならない。抑圧されている状況を見つけて、抑圧している側と抑圧されている側をはっきりさせる。そして、抑圧構造をひっくりかえす。そのための知識が大事である。抑圧されている人に対して、研究を通して力を与える。このことをエンパワーメントと言い、日本語に訳すと、力を与える、励ます、力付与という意味合いになる。
④ 構成主義・構築主義
社会的現実は、その人たち自身が作り出している。知識そのものも創り出されている。研究者も相手と協同して、作り出していく。その現場にいる人たちが、世の中をどう見ているか、どうとらえているか、つまり主観的な見方である。現実がどう見えて、どう感じられているかを明らかにするためには、相手に聞かないと分からない。
当事者と研究者はできるかぎり近い立場となり、研究自身も新しい主観的現実を創り出していく、そのプロセスに参加することになる。
ちなみに、構成主義・構築主義と訳することが多いが、社会学者は、ものごとは社会的に作り出されると考えている。
単純な例として、障害児の教育の話をあげることができる。ある社会学者によると、障害は、作り出されているものだから、障害児教育は意味がない、と言う。あらゆるカテゴリーは、社会的に作られているという立場である(私(無藤)は、障害は生物学的に証明されるところをもつのだから、それは違うのではないかと思うが)。
⑤ 参加型
当事者がどうとらえていくかがポイントになる。
子どもたちにとっては、知識は当事者の暮らしぶりを良くしていくものである。すると、当事者の生き方を尊重しながら、いかに良くしていくかということは、その文化の在り方をできる限り尊重しながら良くしていこう、ということになる。
文化的相対主義に近いものもある。医学の分野では母子保健を例にとると、それぞれの伝統文化の中に、漢方やインドの治療法など、それぞれの治療法がある。その文化の人に暮らす人は、それが良いと思っている。西洋医学で批判しないで、その思いを尊重したほうがよい。
そのような極端な立場もあるし、いろいろな知識を文化の中に持ち込むか、またはコミュニティの人と相談しながらという立場もある。
要するに、自分たちの暮らしを、実際的知識、経験的な知識を用いて問題にしているのである。
3)方法論(methodology)
研究者が研究を始めるにあたって、新しい知識を得るための具体的な手立て、そこでの原理原則である。
① 実証主義
科学的手法を信じる特定のやり方。科学的なやり方を信奉し、伝統的な自然科学(hard science)にできるだけ近づける。反証法(falsification)を重視する。反証法とは、ある事柄が、ある命題であると間違う可能性があることによって、その命題が意味あるかを判断することである。
例えば、「明日、東京は晴れる」は反証できるが、「明日は気分のいい日だ」は、反証しづらい。主観的なモノは反証しづらい。
反復可能性もしくは追試可能性(replicate)とは、人がやった研究をもう一度繰り返して確認することである。実験研究では反復可能性を検討する必要がある。世界どこでやっても同じ結果が出るはずという想定をする。病気の治療法もそういう考え方である。アメリカの治療法が日本人に当てはまらないのは困る。だが、アメリカの薬が日本人に効かないことはあるかもしれないが、それは生活習慣や遺伝子によるかもしれない。
質的研究の中には、反復可能性が低いものがある、あるいはゼロのものがある。西太平洋の島の発見は、他の島では違うかもしれない。
② ポスト実証主義
少しずつ真実に近づいていく研究手法。研究によってバイアスが入ると誤差が大きくなる。
そういう立場からは、研究によって違いが出てくることはありうる。病気の治療法も、100人の治療をしたら100%治ることもあるかもしれないが、治癒率が、この薬を使ったら60%など、研究によってばらつきがある。平均60%治癒するというのは60%治るということを意味するわけではない。0%だったり、7割だったりいろいろである。
典型的なのは、うつ病やうつ症状の治療薬は、どのくらいよくなるかが研究されており、
80%にいかない。しかも、自然治癒で半分くらいは自然に治っていくということも分かっている。世の中の現実には非常に複雑なものがあり、いろいろな研究方法を組み合わせて、全体の分布を見ながら統計的な方法が中心となっている。統計的な方法ではあっても、
反証可能性や反復可能性は、明確な実験ほど単純ではないが、なくはない。ただ、誤差が大きいものは、同じ方法を使って、もう一度研究しても、結果が違うこともある。
以上のことから、実証主義とポスト実証主義はエビデンスが大事である。ある研究をやったら、研究によってAというやり方とBのやり方を比べて、AがよかったからこれからAとはならない。大した差じゃないとか、いろいろ出てくる可能性がある。一つの研究でエビデンスというのは、教育の世界、実は医学の世界でも、うつ病のような精神的な病気の場合は、いくつも研究を積み重ねないと信用できない。
③ 批判的理論
抑圧されている人の立場に立ちエンパワーする。最初にそれが問われる。どちら側の見方なのかが大事である。政治的対立があるとき、あなたはどちらの側であるか、中立の立場を取ることは、批判的立場の人は認めない。
④ 構築主義
いろいろな流儀が入っている。一番重要な立場は、解釈学的。インタープリティブは解釈的と訳す。Hermeneuticは、解釈学と訳す。解釈学は一つの哲学の立場である。世の中の現実は、そこにいる人たちが、解釈する。思うことを組み立てている。それを調べるにあたっては、その場にいる人たちの解釈を解明しないといけない。それを解明するのは、研究者が解釈することだから、二重に解釈することになる。解釈に、解釈に、解釈が重なっていく。それを、解釈学的循環(Hermeneutic Cycle)という。人は書斎の中で考えているわけではなく、実際に活動しながら解釈している。現場の人たちの解釈に研究者も入り込み再現していく。そのため、客観的な解釈はありえない。そこで起きていることを忠実に再現する研究方法である。
具体的には、その人たちがしていることをインタビューし、観察し、その解釈をそれでよいか確かめながらやる。それを解釈学的という。こういう立場の人は多くて、例えば、保育者が何かしているかを記述していくときに、どう保育者が思ってしているか、それを書いていくとか、行為を書く、研究者が解釈する、それを保育者に戻して確認をとりながら。
という立場である。批判的な意見もある。客観的な立場からみたら、実践者の思い込みじゃないかともなるが、構成主義、構築主義からしたら、思い込みしかない、思い込みにも基づいて行為していることになる。実際には、行為と解釈を調べていくが、保育者がいうことを鵜呑みにはしない。
⑤ 参加型
参加的というのは、方法論的には、相手の人たちと一緒にやっていくこと。一番明確な立場は、当事者研究である。
例えば、難病の人たちと一緒に問題を考えていこう、解決しようとするのは、参加型である。困っていることを見出して、一緒に解決していこうとする研究手法である。
そういう立場から考えてみたら、世間から与えられた枠組みがその人たちに当てはまるとは限らない。認知症の人は認知症を生きているわけではない、認知症のカテゴリーはその人には意味がない。その場に参与して、その様子を聞いたり見たりしながら記述していく。
当事者の人たちもいろいろなことをわかったりしていくプロセスも、その経験を通していろいろ学ぶ。研究者と対象者の対話の関係、協働の関係を重視している。
p.106
B.選ばれた実践的論点に関する各パラダイムの立場
1)探究目的(Inquiry aim)
その研究は何のために行うのか。
① 実証研究
現象をコントロールし、予測する。法則一般を見つける。
② ポスト実証研究
できるだけ真実に近づこうとするが、見つからないので、できるだけ近づく。
③ 批判的理論
権力的抑圧的構造を変えるのが目的だから、それに役立つことを探す。暴き立て、意識改革をし、社会運動をしてひっくり返す。例えば、フェミニズム、人種差別のことである。
④ 構築主義、解釈主義、
その人たちにとって、現象の意味を明らかにする。その現象が現場で暮らしている人たちにとって、どういう意味をもつか。特にこの立場の人たちにとって、インタビューはとても大切である。その人たちがどう感じているかを浮かび上がらせる。実際には、社会も文化も複雑だから、社会や文化を創り出しているといっても、個人が白紙から作り出しているわけではない。社会からやってくるものを、再解釈して新しく作り出していく。社会によって文化によってさまざまである。
⑤ 参加型
研究する側、研究される側の関係をどれだけ対等平等であるかが重要である。知識は一方的な関係ではない。そのコミュニティに役立ち、その人たちがコミュニティで作り出す知識、そこに研究者が参与して、一緒に作り出していく。
2)知識の性質(Nature of knowledge)
調査研究を通して一般化される知識を研究者がいかに見い出すのか。そこで見出される知識の性質。
① 実証主義
仮説を持っていて、データを検証して事実とする。その積み重ねが科学の進歩である。唯一の現実があるとすれば、事実を積み上げて明らかになる。
②ポスト実証主義
現実はあるのは分かっているが、事実を積み上げながら徐々に複雑な現実を浮かび上がらせる。
ポスト実証主義の典型として、三角測量法(triangulation)がある。三角測量というのは、一つの標的があるときに二か所から見るとわかる。立体的なものだったら三か所となる。場所によって位置や見え方が違うが、いくつか組み合わせればわかる。事実を積み上げれば、標的は浮かび上がるのである。
③批判的な立場
知識というのは、抑圧構造を変えていくのに役立つべきもの。社会的に変えるような、役立つような知識が知識である(そうじゃないのは無駄な知識)。
④構築主義、構成主義
知識とは、当事者が作っていくものである。研究者も参加していくことで、一緒に知識を作る。知識の作り出し方も多様だとすれば、知識というモノは文化によって人によって違っていて当然である。社会的に作り出された現実は、場所によって違うという相対的な考え方である。
⑤参加型
多様な現実がそれぞれの当事者やコミュニティにあるが、そのコミュニティに独自な在り方を良くしていくためにはどうするのか。コミュニティの人にとってより良いものやより良い生活を考えていく。
p.108
3)知識の蕃積(たくわえ)(Knowledge accumulation)
① 実証主義
こつこつと知識を積み上げていく。
② ポスト実証主義
統計的なアプローチをとり、現実に出来る限り近づいていく。
③ 批判的理論
あらゆるものは歴史的産物であり、権力を突き崩すことに有用な知識をためていく。
④構築主義
それぞれの解釈だと、知識が積みあがらないので、似た立場の人は整理できる。もうひとつは、解釈するやり方であり、ある程度は解明できるかもしれない。
⑤参加型
協働の仕方を主に考える。研究者が現場の生活者・実践者と協働して仕事をしていくやり方を考える。
4)研究の質の良さ(Goodness or quality criteria)
研究者が研究をいかに評価するのか。
① 実証主義
科学的研究によって、方法をより厳密にすること。
② ポスト実証主義
調査を通して得られたデータが。統計的に確かなレベルで客観的であるかに意味がある。
③ 批判的理論
権力構造を明らかにしたり、よりよい社会を作るために有用な知識であること。
④構築主義・解釈主義
その場にいる人達の解釈しているやり方を忠実に解明する。その意味では方法論である。
例えば、サモアに行ってこういうことがありましたという時に、もう一度行っても似たようなことがあるのかを調べる。傷があるから確かにいったのではないかなど、解釈の元になるデータを見つけて、もっともらしさを明らかにする。
⑤参加型
その場の人たちがどうやって暮らし、経験をどのように活かしているのか。実践的な知恵をどう使っているのかを明らかにする。そういう意味で実践研究に近い。
5)価値(Value)
研究者が調査研究の中で何を重要だと考えているかということであるが、今まで述べたことの繰り返しであるため省略する。
6)倫理(Ethics)
研究者と研究対象者との間の相互作用や人間関係についてであるが、これについても前回
説明したので省略する。
p.110
7)声(Voice)
声と呼んでいるのは、そこで問題にされているデータは誰の語りなのか、誰から引き出されたのか、を扱っているからである。
① 実証主義、②ポスト実証
実証主義とポスト実証主義では、本来的に誰がしゃべるかは問題にしていない。
③批判的理論
抑圧されている人の声を引き出しながら、社会を変える。
④ 解釈主義・構築主義
その現場に生きている人たちそれぞれが、その人との感じ方を持っていて、それをどう引き出すかが重要である。マルチボイスは多声的と訳し、それぞれの人が独自の声を持つという意味である。
⑤参加型
参加型も同様にさまざまな声を持っているという考えである。第一の声は、自己再帰性の行動によってもらたらされ、第二の声は、語り、活動、歌、ダンスなどの表現形態などの表出理論の中での声である。内容は、上記と似ているため、省略する。
8)訓練(Training)
いかに研究者が調査研究を行う準備をしているかについてである。これについても詳細は省略する。
9)研究者の姿勢(Inquirer posture)
① 実証主義、②ポスト実証主義
実証主義とポスト実証主義は、客観的であり、研究対象者と交渉しない。実験者が対象者とは余分な会話をしない。
③批判的理論、④構成主義、⑤参加型
これら3つは、特定の立場をとらざるを得ないので、調査で白衣を着るわけにはいかない(ポスト実証主義の中には白衣を着る人もいる)。
批判的理論では、その場に入ることは、特殊な意味を見出さざるを得ない。
構成主義では、相手の感じ方を知りたいという姿勢をとる。
参加型では、あなたの役に立ちたいという姿勢をとる。
10)調整(Accommodation)
今回は説明を省略する。
11)ヘゲモニー・支配権(Hegemony)
今回は説明を省略する。
C.今日の重要問題
1)価値論(Axiology)
何が大切なモノかを考えることである。
① 実証主義
相手との距離をとり、できるだけ相手に関わらない。
② ポスト実証主義
統計的手法を用いて真実にできるかぎり近づこうとしたり、現実に対してより良い理解を得ることを試みる。
③批判的理論
相手とのかかわりを重視し、相手の立場をはっきりさせる。
④構成主義、構築主義
相手の気持ちを引き出す。
⑤ 参加型
その人たちや家族が、より快適に暮らすために役に立つという価値観を持つ。
2)調整と通約可能性(Accommodation and commensurability)
今回は説明を省略する。
3)行動(Action)
今回は説明を省略する。
4)統制(Control)
今回は説明を省略する。
5)心理と知識の基礎づけに対する関係(Relationships to foundations of truth and knowledge)
今回は説明を省略する。
6)妥当性についての拡張された理解(善の基準)(Extended considerations of validity (goodness criteria))
今回は説明を省略する。
p.115
7)声、再帰性、ポストモダン的テクスト表象(Voice, reflexivity, postmodern textural representations)
声とは、誰が語るかである。調査研究を通した、著者、対象者、研究者の声である。
Reflexivityとは、自己再帰性と訳し、自分に戻ることである。
① 実証主義、②ポスト実証主義
研究者だけが声を持つ。相手と関係を持たず客観的である。
③批判的理論
研究者自身の立場は、対象者とともに解釈するという立場である。相手との関係性を尊ぶ。研究者の主観にはさまざまな要素があり、歪みを与えるかもしれない。
④解釈主義、構築主義
相手と解釈せざるをえない。解釈は主観的である。研究者の主観が入っているが、修論や博論の締め切りは1月10日であれば、その日で研究を区切る。
⑤参加型
本当に対等かは、相手から問われる。あなたの研究は私たちになんの意味があるのだと批判してもよい。そこを真剣に受け止めようとするものである。
以上、典型的、代表的な、質的研究の立場を紹介した。ちなみに、量的な研究が否定されているわけではない。特に、実証主義やポスト実証主義は量的研究法に近い部分もある。質的手法と量的手法を組み合わせる混合法は、ポスト実証主義の立場に立っている。
質的研究の代表は、グランドセオリーであるが、これもポスト実証主義の立場に立っている。