Chapter 15 Self-Conceptualizing in Development
Philippe Rochat
pp.378-397.
自分は何者であるのか。
この章では、自己の発達について、主に乳幼児期に焦点を当て、自分という感覚を構成するものは何か、自分についてどのように考えるようになるのかについて問うています。
自己については、哲学でも長く議論されてきましたが、発達の初期段階における自己の感覚については明らかにされてきませんでした。果たして、言語で自分が何者であるかを語らない時期の子どもに、自己の感覚はないのでしょうか。
本章を読むことで、心理学研究において実証的に得られた知見に基づいた乳幼児期の子どもの自己の発達について知ることができます。
自己概念は、何によって構成されているのだろうか。現在の発達に関する文献では、自己概念や自己経験に付随することを意味する「最小限の自己(ミニマルセルフ; minimal self)」「客体化された自己(objectified self)」「人格化された自己(personified self)」という、異なる3つの層があることを示している。これらの層は、子どもの発達を通して連続的に出現し、積み重ねられていく。それは、いわば、タマネギの皮のように整然と重なっていくような表象の複雑性はあるものの、それぞれが特定のレベルに対応しており、本章では、誕生後から、およそ10~12歳までの期間を取り上げている。この発達は、自己性(selfhood)を構成する構造(自己をつくるもの)を一般的に意味づけるものの一部である。誕生から乳児期、2歳までに子どもが鏡に映る自分自身を認識し始める時期、照れの表出、自分を「私は(I)」「私を(me)」「私のもの(mine)」のような人称代名詞を用いて呼ぶ一方で他者に対して公正さや偏見を示すようになるといった発達において、自己に関する概念が言及していることや表象内容に関する理解を容易にするものである。
キーワード:自己概念(self-concept),最小限の自己(ミニマルセルフ; minimal self),自己意識(self-consciousness),共意識(co- consciousness),道徳感(moral sense),所属(affiliation),所有権(ownership)
誕生時から、乳児は暗黙的な自己の感覚を現す。
世界に存在する他の物体の中に位置し、区別され、実体があり、動作主的存在としての身体の感覚を生得的に有している。
誕生時の自己に関する生態学的な感覚に始まり、子どもは18ヵ月までに自分が今認識している自身の身体に関する客体化された感覚を発達させる。
鏡で自分自身の姿を認識し始めるようになると、自己意識的情動も示すようになる。
自己意識的情動の表出を伴う鏡の自己認識は、自身に対する新たなメタ認知的構えの指標となる。
3年目から、子どもは自己に対する一人称と三人称の視点を統合し、他者が自分をどのように見て評価しているかを理解し始める。
早い段階で、自己高揚(self-enhancement)の一般的な傾向が示される。子どもは、一人称的視点から自身の価値を過大評価する傾向がある。
30ヵ月から、自分自身を社会規範に言及して概念化し、評価し始める。
3年目に入ると、子どもは集団への所属と排斥によって社会的アイデンティティを発達させ、やがて5歳を過ぎると、社会的偏見を示すようになる。
発達における自己の概念化は、他者の概念化の発達と切り離せないものである。他者とは、自分とは区別され、知覚できる存在であり、自分を評価したり拒否したりする。子どもは、そのような他者と資源を共有して生きていかねばならない。
(発表担当者および発表日:佐久間路子/2014年5月)
(まとめ:伊藤理絵)