Chapter16 Theory of Mind: Self-Reflection and Social Understanding
Astington, J. W., & Hughes, C.(2013).
pp.398-424.
心の理論とは、色々な心的状態を区別したり、心の働きや性質を理解する知識や認知的枠組のことをいいます。また、この理論は、他者の気持ちを理解したり、他者の視点をどの程度取得することができているのかといった発達の特徴を理解するのに役立てることができます。
Premack & Woodruff(1978)は、チンパンジーなどの霊長類の動物が、あざむき行動のように他の仲間の心の状態を推測しているかのような行動をとるという事実に注目して、このような行動を「心の理論」という考え方で捉えることを提唱しました。
本章では、乳幼児期から学童期までの子どもにおける心の理論の発達を包括的に述べています。この分野の日本語のレビュー論文としては、「<心の理論>研究の展望」(子安増生・木下孝司、心理学研究第68号、p.51-67)があり、Premack & Woodruff(1978)の研究についても詳しく解説されています。詳しく学びたい方には是非読んでみることをお奨めします。
(<心の理論>研究の展望 : http://ci.nii.ac.jp/naid/130002028237;Premack & Woodruff (1978) : https://www.researchgate.net/publication/232003352_Does_a_chimpanzee_have_a_theory_of_mind)
本章では、まず最初に、心的表象(mental representation)や誤信念(false belief)のような心の理論において鍵となる基礎概念の説明を行う。そして、心の理論の直観的な面と内省的な面に取り入れてきた発達的構成要素的(developmental-componential)な観点から提唱された、過去から現在までの広い範囲の用語を検討する。次に、心の理論の発達的進歩の包括的な説明を行う。すなわち、乳児においては、他者の注意や意図を反映したお決まりの行為に対する直観的な理解、1歳から3歳頃の子どもたち(toddler)では通常とは異なる目的の理解、就学前児では表象的心的状態の理解の発達、学童期ではより解釈的で複雑な心の理論の熟達というような発達過程である。また、自閉症のような非定型の発達と同様に、発達の個人差についても検討する。最後に、神経学、教育、義務的推論(deontic reasoning)の領域から今後の研究の方向性を模索する。
キーワード: 自閉症(autism),義務的推論(deontic reasoning),教育(education),実行機能(executive function),誤信念の理解(false-belief understanding),解釈の多様性(interpretive diversity),神経学(neurology),表象的心的状態(representational mental states),二次的心的状態(second-order mental states),社会的認知(social cognition),社会的知覚(social perception),心の理論(theory of mind),発達的進歩(developmental progression),個人差(individual differences),直観的対内省的(intuitive versus reflective)
心の理論は、人の行為と相互作用を、その心的状態を考慮することにより解釈および説明することができる精神的な存在としての人の概念である。これらの心的状態とは、信念、欲求、意図のような、世界の中での精神的な人の活動を媒介する表象である。
心の理論は、早期に現れる直感的なソーシャル・スキルと後に発達する内省的な社会的認知の両方を認識するための発達的枠組みとみなされている。
乳児は、他者の注意や意図を反映したお決まりの行為を直感的に理解している。
期待違反(violation-of-expectation)パラダイムや注視方向(eye-gaze-direction)パラダイムを使用して間接的に評価された「潜在的(implicit)」誤信念の理解は、乳幼児において明らかにできるようになる。
標準的な誤信念課題を使用して直接的に評価された「顕在的(explicit)」誤信念の理解は、4歳頃に明らかにできるようになる。
学童期初期の子どもは、皮肉、比喩、相手を傷つけないための嘘(white lies)、意図しない過失(faux pas)、説得を正しく認識できるほどに2次的誤信念や解釈の多様性を理解するようになる。
大まかな年齢基準をあげることはできるが、定型発達における著しい不均質が存在している。これに加えて、自閉症児のような非定型集団において発達のばらつきが存在する。
直感的(社会的知覚)と内省的(社会的認知)の心の理論の活動に関係する2つの明確に異なる神経学的な基盤がある。
学校教育は、内省的な心の理論の発達に重要な役割を果たすかもしれない。これは、心の理論と教育についての研究間の緊密な連携をつくるよい機会である。
心の理論の発達の研究に関するより豊かな枠組みは、義務的推論(義務、許可、禁止について)を含んでいる。義務的推論とは、人間の行為を動機づけたり制約する社会的役割やルールを考慮したものである。
(発表担当者および発表日:原孝成/2015年2月)
(まとめ:白川佳子)