投稿日: Mar 07, 2017 3:34:24 PM
少し前になり恐縮ですが、2012年の環太平洋乳幼児教育学会PECERAシンガポール大会の時に見学した2園をご紹介します。Ramakrishna Mission Sarada Kindergartenラマクリシャナ・ミッション・サラダ幼稚園(http://www.sarada.edu.sg/)と、Vanda Eaton House Preschool ヴァンダ・イートン・ハウス・プレスクール(http://www.etonhouse.com.sg/school/vanda/)です。
この2つの園は、たまたま縁あって見学できたのですが、極めて対照的で、シンガポールという国の多様性を反映しているのではないかと思っています。
シンガポールは国が小さく、多言語多文化の国家です。人材が最も重要な資源と考え教育への投資を熱心に行っています。幼児教育に対しては、SPARKという質評価アセスメントシステムを2011年1月から始めています。保育所、幼稚園としての設置基準を満たした上で1年以上運営した上で、カリキュラム、保育実践、健康、衛生、安全の5分野に関して、評価を受けてSPARK基準を満たしていると認められた場合に認証が受けられます(2016年から6年更新)。現在は、「優れている園」の認定も行っています。2016年末現在665の園が基本認証を受け、72園が優秀園と認定されているそうです(https://www.ecda.gov.sg/sparkinfo/Pages/home.aspx)。
学会があった2012年と言えば、SPARK質評価システムが動き始めた翌年でした。PECERAシンガポール支部が計画した施設訪問には、初めてのSPARK認定園のいくつかが指定されていました。その一つがラマクリシャナ・ミッション・サラダ幼稚園でした。
この園は、インド系の宗教法人ラマクリシャナ・ミッションが、貧困家庭の子どもにも教育をと設立した学校です。同じ敷地内に小学校・中学校・高校があります。就学準備を意識したカリキュラムが組まれており、教室の中に音楽、アート等のエリアがあるほか、体操をする部屋、水遊びができるエリア、キッチン、コンピュータ―など、クラス全体あるいは少人数で(担任は2名ずつ)その時間に計画された活動の取り組んでいるようでした。
通りかかった教室では、子どもたちが歌をうたってくれたり、手遊びをやってみせてくれたりしました。
掲示物からは、自然、シンガポールの街、建物、絵本の話を発展させた子どもたちがつくったお話など、テーマを持った活動を行っているようでした。
また、古い建物に手を入れながら、環境を整えている様子があちこちに伺えたのと、元々は小学校を前提にした建物の一部を幼児教育施設として使っている様子から、既存の空間を先生たちが工夫して使っているように感じました。
左の写真は、子どもが外に出ている間に教室の全景を撮影したものです。
シンガポールは多言語が当たり前。継承語であるベンガル語と、英語の両方が使われていました。バイリンガルの園であることは、シンガポールではそれほど特別なことではないようです。
寺院と隣り合っており、帰る時駐車場から振り返ると寺院の建物が美しくそびえていました。
もう一つのイートン・ハウスは、園設置の経緯や運営方針が対照的です。イギリスの就学前教育を取り入れて、「最先端」の方法を取り入れているとする私立の園です。1995年に最初のプレスクールを設立した後、国際バカロレア準拠の学校として国際的にも展開しています。2016年現在12カ国に100の姉妹園・学校があるそうです。比較的経済的に余裕がある家庭が選択するタイプの園です。
見学した時は、経営拡大が始まったころでした。こちらは、たまたま学会で友達になった園長先生にお願いして1日見学させていただきました。
こちらの園は、中国語と英語の二言語の園です。在園児は必ずしも中国語がルーツの子どもとは限らず、中国語を第3の言葉として学びたい子どもも少なくないそうです。日本人家族の子どもも通園しているということでした。毎日2時間、リード・ティーチャーが中国系の人に交代する時間があり、その時間の活動は全て中国語で行われていました。中国語がよく分からないらしい子どももいましたが、見学したのは製作活動で、全ての子どもが参加できるように工夫されていました。
それでは、中に入ってみます。
子どもたちが夢中になって遊んでいる、恐竜やライトテーブル、工作、ごっこ遊びのエリアは撮影できなかったのですが、この雰囲気からレッジョ・エミリア・アプローチの影響を感じていただけるかと思います。訪問の2週間後には、イートン・ハウス全体で、アメリカのレッジョ・エミリア・アプローチの研究者(奇しくも大学院時代の恩師だったことにびっくり!)を招いて研修会を行う予定もある熱心さでした。
園長先生は博士号の学位を持つまだ若い方で、熱心にレッジョ・エミリア・アプローチについても勉強されていました。しかし、先生全員が理解するところまでは達していないので、来週の研修を楽しみにしているということでした。また中国語ができる先生全てが英語が堪能なわけではないので、直に研修を受けられないなど、新しいレッジョ・エミリア・アプローチを理解してもらうためには、まだまだ課題があるともおっしゃっていました。
因みに、この学校法人は2013年に、REACH Reggio Emilia in Asia for Children (子どものためのアジアのレッジョ・エミリア)http://www.reach.edu.sg/en/ を立ち上げています。
経済的にゆとりのある家庭を対象にした、ブランド力を持つイートン・ハウス・プレスクールと、宗教的・民族的ルーツを大切にするサラダ幼稚園、おそらくもっと多様な園がシンガポールに存在しそうです。
(執筆:内田千春,2017年2月14日)