投稿日: Mar 11, 2020 2:56:49 PM
大谷佳子
翔泳社
2019年
筆者は「はじめに」において、傾聴の重要性を指摘しつつ「傾聴トレーニングは、援助職が学ぶべき基本の1つでしょう。ところが、『質問する』ことは、『聴く』ことほど、体系的に学ぶ機会がないのです・・・『質問する』ことも『聴く』ことと同じ、援助の現場で不可欠なコミュニケーション技術です」(2頁)と指摘する。対人援助の質問技術の重要性を踏まえた上で、本書は、主に対人援助職を対象として執筆されており、援助職が、質問の技術について幅広い知識・技術を得るのに便利である。
本書においては、マイクロカウンセリングの技術や各種心理療法(ナラティブ・アプローチ、解決志向アプローチ、動機付け面接など)の技術をわかりやすく解説している。見開きで左の頁に質問技術の解説、右の頁に具体的な例を示している。その後には、ワークシートが掲載されており、自己学習や演習が可能である(ちなみに、ワークシートは出版社ホームページからダウンロード可能なので、プリントアウトすれば繰り返し使用できる)。
個人的には、第3章「この質問ではうまくいかない」が勉強になった。うまくいかない質問とは、面接において失敗につながりやすい質問で、本書では7つに分類されている。
① 相手を委縮させる質問(「なぜ」「どうして」を使用する質問)
② 相手が圧力を感じる質問(「質問はありますか」等、理解したことを前提とする質問)
③ 相手を混乱させる質問(同時に2つのことを聞く質問=ダブルバーレル質問)
④ 相手を誘導する質問(支援者の判断を前提にした質問)
⑤ 相手を困らせる質問(「最近どうですか」等、あいまいな質問)
⑥ 相手を不愉快にさせる質問(決めつけの質問、回答を求めていない質問)
⑦ 相手を置き去りにする質問(矢継ぎ早な質問、相手を置き去りにする質問)
①については紹介している文献はあるが、それ以外の質問は取り上げられている文献が思いのほか少ないので、大いに参考になると考えている。
しかし、質問技術に関する知識・技術が網羅されているとはいえ、一つ一つの内容については概説されているので、読者が興味を持った点については、別の文献でさらに深めていくことになろう。そのような意味では、参考文献を掲載されていなかったのが惜しまれる。
いずれにしても、面接技術、特に質問の技術を高めたいと考えている保育者、養成校の教員には有益な書籍といえる。
(紹介:鶴 宏史,2021年1月18日)
目次
はじめに
第1章 もっと質問してみよう
第2章 質問力を高めよう
第3章 この質問ではうまくいかない
第4章 こんなときはこの質問!
第5章 訊いたら、聴く
第6章 質問力を援助に活かそう
おわりに