投稿日: Jan 11, 2017 9:29:55 AM
平成28年6月3日に「児童福祉法の一部を改正する法律」が公布されました。一部が即日施行され、その後順次10月1日、平成29年4月1日と施行され、それに伴って必要な政省令や通知が制定されます。
改正法の趣旨は、「全ての児童が健全に育成されるよう、児童虐待について発生予防から自立支援までの一連の対策の更なる強化等を図るため、児童福祉法の理念を明確化するとともに、子育て世代包括支援センターの法定化、市町村及び児童相談所の体制の強化、里親委託の推進等の措置を講ずる」ことであり、「児童虐待の発生予防」と「児童虐待発生時の迅速・的確な対応」、さらに「被虐待児童の自立支援」などの観点から対策の強化が図られます。
この概要と関連通知は、全国保育士養成協議会のサイトに貼られたリンクからも見ることができます。
概要 http://www.hoyokyo.or.jp/nursing_hyk/reference/28-1s3-1.pdf
通知 http://www.hoyokyo.or.jp/nursing_hyk/reference/28-1s3-2.pdf
この最初に、「児童の福祉を保障するための原理の明確化」が掲げられ、児童福祉法の理念規定である第一条と、関連する第二条が改正されました。ここではこの点について見ていきます。
児童福祉法の理念規定は昭和22年の制定時から見直されておらず、児童が権利の主体であること、児童の最善の利益が優先されること等が明確でないといった課題が指摘されていました。このため、児童は、適切な養育を受け、健やかな成長・発達や自立が図られること等を保障される権利を有することを、総則の冒頭(第1条)に位置付け、その上で、国民、保護者、国・地方公共団体が、それぞれこれを支える形で、児童の福祉が保障される旨を明確化することとされました。
新旧の該当部分を見比べてみましょう。
旧児童福祉法
第1条 すべて国民は,児童が心身ともに健やかに生まれ,且つ,育成されるよう努めなければならない。
2 すべて児童は,ひとしくその生活を保障され,愛護されなければならない。
第2条 国及び地方公共団体は,児童の保護者とともに,児童を心身ともに健やかに育成する責任を負う。
改正児童福祉法
第1条 全て児童は、児童の権利に関する条約の精神にのつとり、適切に養育されること、その生活を保障されること、愛され、保護されること、その心身の健やかな成長及び発達並びにその自立が図られることその他の福祉を等しく保障される権利を有する。
第2条 全て国民は、児童が良好な環境において生まれ、かつ、社会のあらゆる分野において、児童の年齢及び発達の程度に応じて、その意見が尊重され、その最善の利益が優先して考慮され、心身ともに健やかに育成されるよう努めなければならない。
2 児童の保護者は、児童を心身ともに健やかに育成することについて第一義的責任を負う。
3 国及び地方公共団体は、児童の保護者とともに、児童を心身ともに健やかに育成する責任を負う。
旧第1条は第2条に移され、第1条では「児童」が主語となりました。児童を権利主体とする「児童の権利に関する条約」を日本が1994年に批准して以来22年を経て、国内法に明文化され、制度上、児童が「保護される客体」から「権利の主体」へと転換されました。
第2条では旧第1条を受け継ぎつつも、「良好な環境」に生まれることや、発達に応じて「意見が尊重され」ること、児童の「最善の利益が優先して考慮され」ることが具体的に示されました。
また教育基本法第10条(家庭教育)の「子の教育について第一義的責任を有する」とする規定に合わせて、児童の健全育成について保護者が第一義的責任を負うこととする条文を加えました。
制度論(制度についての学問)上の原理としては、個人を権利主体とする考え方に応じて、子どもの教育や福祉が私事的なものとされ、国民や国及び自治体がこれを支えるという構造になりました。
つまり、ここは誤解のないよう強調しておきたいのですが、保護者の第一義的責任といっても自己責任として放り出すのではなく、親などの保護者がその責任を果たせるよう、人々や行政がみんなで支えましょう、という考え方になったということです。より突っ込んで言うと、たとえば保育所保育について行政がすべて保障すべきという議論も見られますが、これは制度論的には、保護者を自由に自ら判断する存在とはとらえないで、公がすべてをカバーするという前提に立っています。改正児童福祉法では、保護者の意向を尊重し、保護者への信頼を前提としつつも、現実にそのすべての責任を果たすためには周囲の支援が必要であることを想定したつくりになったと考えることができます。
なお、これらは、「児童の福祉を保障するための原理」であり、児童に関する「全ての」法令の施行に当たって、常に尊重されなければならないとされている(児童福祉法第3条)ことも確認しておきたいポイントです。
(執筆:矢藤誠慈郎,2017年1月10日)