投稿日: Mar 07, 2017 3:45:0 PM
原作 佐渡 裕
絵 はたこうしろう
小学館 2016年11月1日 初版第1刷発行
子どもたちは一年生になったら、単に“小学校へいく”というだけでなく一年生になる不安や喜びやひとりひとり違ういろいろな思いを抱えている。そして、育っている家庭もみんな違う。
この、はじめてのオーケストラはパパから一年生になったら「とっておきの コンサートに招待する」と言われ、ずっと楽しみにしていたみーちゃんがはじめてオーケストラのコンサートに行くお話。しかも、そのオーケストラの指揮者がパパ!
この本をはじめて手にして、読み終わって本を閉じたときに第9のコンサートに行ったことない!とちょっと心がそわそわする、そんな自分がいた。オーケストラって素敵なものなんだよなあと行ってみたいあなと改めてみーちゃんの思いを通して感じることができた。
わたしが勤務する児童センターに遊びにくる、絵本が好きなTくんにこの絵本を読んであげようと思ったら「ぼく第9って知ってるよ、第1楽章とか第2楽章とかあってね、第1楽章はねベートーベンの怒っている荒々しいとことかあって、あと、優しいとことかいろいろあってね・・・」と、あまりに長い説明で覚えられなかったけれど、確かに第9と思われる説明をしてくれた。
学校で先生がかけてくれた第9が2年生の彼にとって印象に残るものだったらしく、自分で読むからいいと静かに自分でページをめくって読んでいた。読みながら、首が揺れていた。第9のメロディーが彼の中に流れているのかなあと寝転がって読んでいたけれど(通常は「お行儀が悪いから座って読んだら?」と一応は声をかけることにしている)黙っていることにした。
中学2年生のKちゃんは、私の机の上に置いてあったこの本を見つけると「わたし、この前 はじめてコンサートいったんだ!お母さんが連れて行ってくれてさあ」とページをめくりながら「そうそう!こんなホールなんだって!」とドキドキしたことを興奮気味に話してくれた。
子どもたちの音楽との出会いっていろいろだなあとこの本を机に置くことでいろいろ思うことがあった。子どもたちの心を動かす本であることは間違いない。
この本の作者は指揮者の佐渡 裕さん。あとがきの文章がとってもいい。佐渡さんが本気で音楽を愛していて、演奏会に一人でも多くの子どもたちが足を運んだり、出会ったりして欲しいというメッセージがちゃんと伝わってきて、何度も読み返してしまった。
実際は演奏会なんて、いかない子どもたちの方が多いと思う。でも、この本に登場するみーちゃんが音を楽しむ姿がはたこうしろうさんの素敵な絵とともに記憶に残ったら、今度、オーケストラの音楽がどこからか聞こえてきたときに、きっと耳を澄ますのではないかなあ・・・。
1年生になる子どもたちに読んであげたいなあと思う1冊です。
(紹介:安井素子, 2017年3月1日)
佐渡 裕(さど ゆたか)
指揮者。1961年京都生まれ。京都市芸術大学卒業。故レナード・バーンスタイン、小澤征爾らに師事。ヨーロッパベルリン・フィルハーモニー管弦楽団ほか名門オーケストラへの客演を多数重ねる。2015年9月よりオーストリアを代表するトーンキュンストラー管弦楽団音楽監督に就任。海外でのオペラ公演や、国内では兵庫県立芸術文化センター芸術監督、シエナ・ウインド・オーケストラ首席指揮者を務めるほか、2008年より「題名のない音楽会」(テレビ朝日系列)の司会者を7年半勤めたことでも知られる。
著書に『僕はいかにして指揮者になったのか』(新潮文庫)、『僕が大人になったら』(PHP文庫)、『棒を振る人生~指揮者は時間を彫刻する』(PHP新書)などがある。
はたこうしろう
絵本作家・イラストレーター。1963年兵庫県生まれ。京都精華大学美術学部卒業。絵本の他、挿画、イラスト、ブックデザインも数多く手がけ、「ちいさなかがくのとも」(福音館書店)のロゴデザインとシリーズ装丁、「こそあどの森の物語」シリーズ(岡田淳著/理論社)の装丁、ブックデザインなども手がける。
著書に『なつのいちにち』(偕成社)、『むしとりにいこうよ』(ほるぷ出版)、『雪のかえりみち』(藤原一枝文/岩崎書店)、「ゆらゆらばしのうえで」(きむらゆういち文/福音館書店)、「クーとマーのおぼえるえほん」シリーズ(ポプラ社)、「ショコラちゃん」シリーズ(講談社)。妻おーなり由子との共著「あかちゃんとのあそびえほん」シリーズ(講談社)などがある。