投稿日: Mar 28, 2021 4:41:49 PM
旅立ちの季節
新しい世界へ旅立つ人に
絵本を1冊送ったり 一緒に絵本を読む時間を持つことができたら 素敵だと思う
“保育”という仕事をしている人たちにとって 子どもだけでなく 同僚だったり 先輩だったり 後輩だったり 学生だったり たくさんの“誰か”を見送る季節 明確な夢じゃなくても それに出会うためでもいいから そして 新しい世界に旅立つ自分のためでもいいから 一歩 あゆみ出す勇気をもらえる絵本を 3冊選んでみました。
新世界へ
あべ弘士
偕成社
2012年11月 初版第1刷
“ぼくたち”がはるか遠くにあるという新しい世界へ飛び立つ。行く先はまだ見ぬ約束の地。“ぼくたち”として描かれているのは鳥。最後のページにこの本の主人公は“カオジロガン”だと記されている。
カオジロガンは南の越冬地を目指して3000キロも遠くの“約束の地”へ向かって1か月とび続けなければならないという。
そのことを、絵本に描いている。
あべ弘士さんが、北極に旅したときに、いつかは会いたいと思っていたカオジロガンが飛んでいくのに出会い、とても感動したそうだ。
絵本の中で“ぼくたち”が飛んでいく姿、その背景に見える景色がなんとも言えず、美しいと感じる。
旭山動物園で長年飼育係をしていたあべ弘士さんの描く動物は、どれだけデフォルメされていたとしても、まちがいなくその動物そのもの。服を来て2本足で歩くことはない。
3000キロ飛び続ける“ぼくたち”がひたすら飛び続けるその姿が、どのページもとてもいいのだ。カオジロガンと一緒に北極の地を旅している気分になる。
コロナの蔓延を含め、これから先、どんなことがあるのかわからない場所に向かっている“わたしたち”。でもきっと向かっているのは初めてみる“約束の地”。そこが暖かく、穏やかな場所であるためには、3000キロ飛び続けるような、覚悟とアクティブな挑戦も必要なのではないかと思う。
そのことが、静かに子どもたちに伝わることを願う。目の前の子どもたちにははばたく羽があると信じて…。
ナビル
作 ガブリエル・バンサン
訳 今江祥智
BL出版株式会社
2000年4月10日 第1刷発行
この本の出版社 BL出版の社長である落合直也さんに、バンサンとの出会いについてお聞きしたことがある。その時に、この“ナビル”が日本の読者のために書き下ろした、オリジナル作品であると聞いた。それだけでなく、このデッサンだけの絵だからこそ、思いを込めたことなどもお聞きした。
そして、わたしの尊敬する故大場幸夫先生(元大妻女子大学学長)が、学生たちに最後の授業で絵本を読みたいと選ばれたのがこの“ナビル”だった。
一人の少年が先生から聞いていたピラミッドを、どうしても自分の目でみたくて、旅にでる。そこで様々な人に出会い、助けられ、目的を達成する。
ピラミッドにかけより、ピラミッドに触れたときの少年の姿…。わたしは、いつもその場面で思わず涙がこぼれる。
遠いから無理だという大人たちの中、ひたすら自分の足で歩いていく。
途中で出会った彼をロバにのせて、ピラミッドまで連れて行ってくれた大人は「それでも見に行くっていうんだね?」「まだ、ずっとさきなんだよ。いいのかね」と常に彼に尋ねながら進む。きっと、大場先生はナビルだけでなく、こんな風に寄り添う大人の姿を学生に感じてもらいたかったのではないかと思う。
本当に、何に希望を持ったらいいのかわからない現状のなか、それでも“人”は暖かく、信用していいものだと伝えたい。幼児にはちょっとむずかしいかもしれないけれど、手元に置いておきたい1冊です。
きみの行く道
ドクター・スース作・絵
いとうにひろみ 訳
河出書房新社
2008年2月29日 初版発行
おめでとう。
今日という日はきみのためにある。
外の世界へむかって
きみは、いま、出ていこうとしてるんです。
で始まる。ドクター・スースの絵本
ドクター・スースといえば、映画グリンチを子どもたちと楽しく見た覚えがある。絵本も何冊も日本で出版されているが、この3月にドクター・スースの絵本の中の6冊が差別描写などがあるとして、出版停止になったという記事を目にした。元々、戦時中に政治風刺画を描いていた人であるということなのだけれど、その後の彼の児童書は子どもたちに支持されてきたことは間違いないと思う。
この“きみの行く道”も新しいことをはじめる人には、子どもであろうと、大人であろうと、見たら心が動く内容。頭に脳みそがつまっていて、靴に足が入っていたら、行きたい方向へちゃんと行けるという表現にはなるほどと思うしかない。色も絵も独特な表現で、絵を見る子どもたちにとっては、魅力が満載。きみの行く道はスランプがあったり、ただ待っているだけの「待つところ」に行ってしまったり、ひとりぼっち!になったり…。でも最後はきみなら、山だって、動かせるんです!って。その“きみ”が山を動かしている場面はありえないのに、おもしろい。ページをめくりながら、わたしは、いまここにいるのかなあ‥。もっと歩きつづけるべきなのか?と、外の世界に出ていこうとしているわけではないのに、立ち止まって考えてしまった。伊藤比呂美さんの訳の魅力もあるのだと思うが、読み終わったら、人生いいことばかりじゃないけれど、きっといいことに向かっていけると希望が持てるはず!
(絵本紹介・画像撮影:安井素子, 2021年3月20日)