投稿日: Jun 16, 2017 12:45:18 AM
今年、5月5日のこどもの日に刊行されたばかりの本です。私は、今年3月、こども環境学会関東の主催する、こども環境研究会関東セミナーでこの「まち保育」というワードを知り、この本が発刊されるのを心待ちにしていました。
本書では、「まち保育」を「まちにあるさまざまな資源を保育に活用し、まちでの出会いをどんどんつないで関係性を広げていくこと、そして、子どもを囲い込まず、場や機会を開き、地域社会と一緒になって、まちで子どもが育っていく土壌づくりをすること」と説明しています。決して保育施設以外の場所での園外活動のみを指すのではなく、子どもとまちをつなぐことから出発し、園内だけでは出会えない、あるいは作ることのできない関係性を取り込んだ保育と言えます。
第Ⅰ章では「保育は施設の中だけで行うもの?」等の問いを立てながら、「まち保育」の定義や必要性が書かれています。子どもたちがまちに出かけ、まちの資源を活用し、いろいろな人に出会い、関係が広がり、保育施設にまちの情報が集まり発信される。このような「まち保育」に含まれる様々な活動を分かりやすく次のような「4つのステージ」を提示しながら説明しています(本書p.30図7を加筆修正)。
stage1:まちで育てる(まちのモノ・ヒトの活用)
まちの様々な資源を保育に活用し、子どもが「まちの子ども」として育つ
stage2:まちで育つ(まちのモノ・ヒト・コトと子どもがつながる)
子どもがまちのお気に入りの場所や安心できる大人とのふれあい、まちに親しみと愛情を持つ
stage3:まちが育てる(住民の「まちの子ども」への関心を誘発)
住民がまちの子どもの成長を見守り、関心を持ち、まちそのものが成熟する
stage4:まちが育つ(共に暮らすまちへ)
子どもも含めた様々な世代が共に暮らし、犯罪や災害にも強いまちへ
第Ⅱ章、第Ⅲ章では、様々なまち保育の具体的な実践例を紹介しており、第Ⅳ章では、都市計画や子育て支援、多世代交流の観点から、保育ができる地域の活性化やまちづくりを提案しています。たとえば、「まち保育」の考えを取り入れたお散歩やお迎え、近所迷惑と言われない音環境のあり方、保育施設と地域との双方向的な活用、福祉避難場所としての保育施設のあり方、祖父母世代のとの関わり、地域を巻き込んだ幼児期から学童期への接続について等です。
今回改訂された幼稚園教育要領では、カリキュラム・マネジメントの重要性が謳われており、その3つの側面のひとつとして、「社会に開かれた教育課程」の実現のために地域の人的・物的資源の活用の重要性が言われています。本書の「まち保育」はその実践例として大きな示唆を与えてくれます。
なお、ここに紹介される「まち保育」は今年7月発売の雑誌「月刊ク―ヨン」にも掲載される予定とのこと。こちらも併せてお読みいただくとより理解が深まるのではないかと思われます。
(紹介:中田範子,2017年5月31日)
目次
第Ⅰ章 子どもを取り巻く環境の変化
第Ⅱ章 まち保育をはじめよう
第Ⅲ章 まち保育実践
第Ⅳ章 まち保育が都市に果たす役割