投稿日: Sep 19, 2016 2:49:32 AM
当代きっての名訳者37名が勢揃い、ということで、それぞれが翻訳についての経験と考えを語ります。いずれも一筋縄ではいかない。その苦労と喜びと、あるいはまた翻訳とは何かを論じます。
一つだけ挙げましょうか。 管啓次郎氏の言葉です。
カリブ海の小説家パトリック・シャモワゾーは「オムニフォン」という造語を作り、ぼくはその用語を借りてずっと使ってきた。それはひとつの言葉の中に、他のたくさんの(数えることもできない)言葉が響きわたっている状態のことだ。一言語は、そのまま移民社会。・・・・・・翻訳とはひとことでいえばオムニフォンの実践、いろんな言葉を別の言葉に吹きこみ、一時滞在の末にうまくいけば定住させて、摩擦、衝突、せめぎあいの中から聞いたことのなかった音、見えなかった視界を発見しようとする試みなのだ。
・・・・・・翻訳が彫刻した何ともいいがたいモノに、読者の頭がコツンとぶつかると、鐘のように鳴り出す。音は共鳴を誘い、わんわんと鳴り響き、それで一言語全体の色合いが少し変わる。はじめは局地的に、やがて広い範囲にわたって、そのときまでには翻訳者は姿を消し名前も忘れられているけれど、そんな風にして世界のあちこちが、時間や距離を超えてつながってゆく。
今読んでも感動します。
(紹介:無藤 隆,2015年1月11日)