投稿日: Dec 01, 2017 11:14:3 AM
著者は認知心理学、聴覚心理学、音楽心理学が専門の研究者(新潟大学人文学部教授)。
一般的には、優れた音楽家には不可欠な能力かのようにイメージされている「絶対音感」というものを、科学的な実験や信頼できる研究データをもとに解明し、絶対音感という能力が音楽を理解する上ではむしろ障害になる場合が多いことを論証している。
音楽の理解で最も必要で価値のある能力は、複数の楽音の周波数比率を計算して認知する「相対音感」であり、統計的な調査の中で絶対音感を持った人の方がむしろこの相対音感の能力が劣っている割合が高いことを示す。すなわち、幼児期における絶対音感を獲得させるような特殊な訓練は、むしろ音楽理解の邪魔になることを主張している。
日本国内の統計データは著者の所属する新潟教育大音楽専攻コースや京都芸術大で、海外のデータは北京芸術学院やポーランドのショパン音楽大学などで協同研究者によって採集された、信頼性の高いものである。
伝説的に語り継がれているモーツァルトの絶対音感などにも科学的な分析を行い、あくまで伝説の域を出ないことと、いずれにせよモーツァルトの音楽的な偉大さを表すものではないことを説明している。
日本における「絶対音感」を音楽教育と結びつけた特殊な状況が、芸大音大等の教育構造内部にまで浸透して、さらなる弊害を再生産している可能性を示すもの。
(紹介:清流 祐昭,2017年9月6日)