投稿日: Sep 18, 2016 4:38:15 PM
スウェーデンの高福祉の実情と、それを支える経済のあり方を解説したもの。
7つの要素に分けて分析している。
経済の開放化と健全なマクロ経済・財政運営。輸出入の割合が高い。法人税が低い。複数年度予算制度により歳出総額のシーリングを前もって決めておく。
ITインフラとイノベーションを生み出す戦略的研究開発。IT化を進めた。研究開発支出の割合が高い。
高い女性の労働参加率と子育て支援。女性が結婚・出産しても働き続けられる。保育所が完備されている。児童手当は子どもの数が増えるほど増える。男性の育児休暇取得が育児休業手当と連動している。
包括的な環境政策。二酸化炭素の大幅な削減と経済成長を両立...させている。
労使協調型の賃金決定。企業に関わらず、同一労働は同一賃金とする。平均賃金を支払えない企業は淘汰される。
積極的労働市場政策と実学志向の教育。機会の平等を追求する。倒産・解雇がしばしば生じるが、倒産を防ぐのではなく、教育・訓練により新しい仕事への能力を身に付けるように導く。失業保険には職業訓練を受けることが義務となっている。教育は大学・大学院を含め無償だが、その中身は実学的である。
労働インセンティブを高め企業活力に配慮。25パーセントの付加価値税と30パーセントほどの地方所得税というフラットな税制を取る。国による所得税は累進的であるが、それが課せられるのは2割程度。年金や失業手当などの社会保障給付は働くことを前提とする。生活保護などは最小限のセイフティネットである。
猛烈に激しい競争の社会の中で企業の救済は一切なく破綻し、労働者は職を失うが、職業訓練を受けて、次の職へと移動していく。新たな企業が起こされる。それらを高い税金と社会保障がそれを支える。その税金の中心は一律のフラットなものである。
女性を含め、皆が働く。働く人は皆が税金を払う。皆が社会保障の恩恵を受ける。繰り返し研修により新たな仕事へと移っていく。これが、「スウェーデン・モデル」である。
日本の場合で言えば、法人税を下げる必要があるが、同時に、租税特別措置をなくすべきなのである。租税特別措置は一部の企業(特に石油関係)に税金を注ぎ込むものであり、競争を妨げ、生産性の向上を阻害する。
福祉は、皆が働き、皆が高い税金を払って、受け取れるものである。女性が働き、高齢者が働く以外に、日本の未来はありようがない。
なお、スウェーデンの保育所について。同書によると。 保育所に通い始めるのは1歳半から2歳くらい。その間は育児休業手当で家庭で育てる。運営費の6分の5は地方税。家計の自己負担は低い。数年前から教育省の管轄に移され、指導要領に基づく運営となっている。看護手当があり、年間120日まで使える。ワークライフバランスを可能にして、5時には職場を出るのが当たり前。転勤はない。 なお、医療費・学校教育費は無償。それをさらに補うものとして、児童手当が子どもが16歳まで一人あたり月に1万2千円ほど。
(紹介:無藤 隆,2014年8月)