投稿日: Jan 17, 2018 7:8:59 AM
初夏の研修の時期、いくつもの園の公開保育、園内研修にお邪魔させていただく機会に恵まれました。公開保育においていつも思うことは、保育者の先生方が本当に謙虚であられることです。あの時もっとこうすればよかった、○○を見落としていたかもしれない、もっと言葉の援助を工夫すればよかった、などといった発言が公開後の実践検討会の自評で保育者から多数きかれます。
一人として同じ子どもはいません。一つとして同じクラスはありません。また保育実践においてはこれこそが唯一無二の素晴らしいもの!といえることはありません。つまり、100点満点などつけることができないのです。いくらでも検討課題、宿題を見つけることができます。保育現実の向上を図ることは永遠の探求課題でもあるといえるでしょう。
私たちは、保育の文化として、謙虚な気持ちや、謙遜のこころ、常に子どもを中心に考え、子どものために頑張る善意の傾向があることを注意しておきたいものです。保育の仕事はやりがいがある仕事であるからこそ、そこに落とし穴があることを自覚しておく必要があると思います。
多くの保育者は、自己評価が低い傾向があり、保育の実践にはマニュアル化を徹底できない特徴があります。しかも、保育の現場では自らの責任で判断を下さねばならない場面の連続で、保育の仕事では精神的にも、大変厳しいものでもあります。
こういった保育の仕事の文化は、全国保育士会倫理綱領にも如実に現れているように思います。
全国保育士会倫理綱領
(チームワークと自己評価)
5.私たちは、職場におけるチームワークや、関係する他の専門機関との連携を大切にします。また、自らの行う保育について、常に子どもの視点に立って自己評価を行い、保育の質の向上を図ります。
(専門職としての責務)
8.私たちは、研修や自己研鑽を通して、常に自らの人間性と専門性の向上に努め、専門職としての責務を果たします。
一方これと比較して、以下のアメリカの保育者の倫理綱領にあたるものをみてみましょう。
全米乳幼児教育協会(NAEYC)の理念:本質的価値(Core Values)
幼児期を生涯における独自で価値の高い時期として評価する
われわれの仕事を子どもの発達と学びに関する知識を基盤としておこなう
子どもと家庭の絆を大切にし、その支援をおこなう
家庭、文化、地域、社会的な文脈おいてこそ子どもをよりよく理解できるということを認識する
一人ひとりの尊厳、価値、独自性を尊重する(子ども、家族の成員、そして同僚一人ひとりの)
子ども、家庭、同僚それぞれが違い多様であることを尊重する
信頼と尊厳を前提とした人間関係において、子どもたちも大人たちもそれぞれが、その可能性を最大限発揮されることを認識する
ここで注目してみて頂きたいのは、日本の倫理綱領の厳しさと保育者の献身的イメージと比較して、アメリカの倫理綱領ではそれらに加えて、保育者一人ひとりへの尊重、人権意識、自己発揮が子どものそれと同様に大切にされていることです。
園内研修は、自己研鑽や自助努力、責務といったことを前提としつつも、やはり、やりがいのある素晴らしい仕事に携わるという誇り、保育者の自己実現、自己発揮、自己成長の喜びを伴うものであって欲しいと切実に思います。
たとえば上述の文書を比較しながら話し合い、保育者同士の尊敬しあう関係性づくりを各園で進めていっていただければとても嬉しく思います。
保育者同士の尊敬しあい認め合い、そして高め合う同僚性の形成を図るにあたり、まずは保育を語る習慣作りから着手してはどうでしょうか。
忙しく余裕がなく園内研修がなかなかできないといった声を多くの園の先生方から聞くことがあります
そんな園の方々に私は、まずは、「手ぶらで」「気軽に」「準備なし」「持ち込みなし」「評価なし」の対話中心の研修を提案させていただき、実際にご一緒にこのような研修をしたことがあります。
1人3分保育を語ります。最初のころは1回の研修で最大5人まで。これで15分です。最後に自由にそれぞれの話について自由にディスカッションを5-15分。30分で終わりです。まずは、振り返りを習慣化すること、そして、事実に基づき保育を気楽に話す習慣を楽しみながらつけることが目的です。
次第にテーマを絞り込むことができます。例えば日によって、「今日は、嬉しかったエピソード」「今日は、優しい気持ちの育ちを感じた場面」「今日の絵本(歌)について、絵本選択にあたり込めた思い、実践の様子」「最近ちょっと気になる子どものこと」「今日の一番激しかったいざこざ場面」等です。お題を決めるのもゲーム感覚で順番にすると、先生の主体性も発揮でき楽しさも増します。
さらには、「持ち込み媒体有り」の保育を語る研修へと発展させていきました。写真、実践記録、教材、保護者からの手紙などを持ち込み、しかし、準備なし、対話中心、短時間でできる研修です。持ち込んだ媒体があると、話の内容が狭められます。間口が狭まると話が深まる傾向があるようです。
研修が楽しくなるために、クイズ形式の研修を工夫したことが何度もあります。例えば写真を持ってきた先生は「YES」か「NO」かしか答えないこととし、他の先生がその写真にについて質問をする。「写真を選んだ理由は○○だからですか?」「はい」「この写真の前には○○といったことがありましたか?」「いいえ」「この写真の後、この遊びは○○といった展開になりましたか?」「はい」といったものです。
多くの園で、先生方が楽しみながら、互いを尊重しあいながら、保育を語りあう姿がたくさん見られたら素敵であると私は思います。
※本記事の内容は、「ちゃいるどネット大阪」の冊子に掲載されたものを許可を得て転載しています
(執筆:北野幸子 2017年12月30日)