投稿日: Oct 02, 2016 1:53:22 AM
こんにちは。子どもと音楽コーナー担当の吉永です。今回は、ペンタトニックをご紹介します。
第1回目の山中先生の「演歌づくり」の実践の中に、演歌の特徴としての『ヨナ抜き音階』(長音階や短音階の四番目と七番目の音を抜いた音階が多く使われる)が紹介されていました。長音階(ドレミファソラシド)・短音階(ラシドレミファソラ)の七音(同じ音は省く)から、4番目と7番目の二音を抜くと、残る音は五つです。この五つの音で構成される音階を、ペンタトニック(五音音階)と言います。ペンタとは、ギリシア語で数字の5を意味するそうです。ヨナ抜き音階もペンタトニックの仲間ですが、それは、日本の民謡だけでなく、スコットランドやインド、東アジアや南米などの民謡にも広く使用されています。
今、近くにピアノ(鍵盤楽器)があれば、ふたを開けてみてください。黒い鍵盤の配列が、実はペンタトニックなのです。三つと二つの黒鍵グループの、三つの方の一番左に親指を置くと、順に、五本の指でペンタトニック音階を鳴らすことができます。いかがですか?白鍵を弾くより弾きやすいでしょう。音が少ないですし、凹凸の凸部分なので指を置きやすいはずです。ですから私は、ピアノの集団レッスン(大学生)では、黒鍵遊びから始めます。
その一つが、「黒鍵だけで弾ける童謡探し」です。皆さんは、どんな曲が思い浮かびますか?学生は、知っている童謡が黒鍵だけで弾けることに驚き、「とんぼのめがね」、「たなばたさま」、「こいのぼり」、「チューリップ」、「メリーさんの羊」などなどを次々に見つけます。初心者であっても、黒鍵だけを弾くのであれば、知っている曲のメロディーを辿ることが易しくできるようです。昨年は、「蛍の光」を見つけた学生が居りました。スコットランド民謡です!
さて、この活動では15名ほどの学生が一斉に電子ピアノを鳴らしています。したがって、教室は音の洪水と化しているわけですが、意外なことに、まるで不快な響きではないのです。なぜでしょう。ペンタトニックの音構成に、秘密があるのです。
ペンタトニックとは、例えばド−レ−ミ−ソ−ラ(−ド)のように、半音のない五つの音からなる音階です。この音階は、連続する五つの完全5度音程=ド−ソ−レ−ラ−ミを、1オクターブ内に収めたものです。二つの音がよく溶け合う音程を協和音程と言いますが、それは、音程を構成する二つの音の振動数の比が単純であるほど近親度が高いそうです。完全5度の音程は、振動数の比が3:2となっており、これは、オクターブ(完全8度=1:2)に次いで単純なのです。こうした振動数比の音構成が、自由に音を重ねても不協和を感じさせない仕掛けなのです。
「わらべうた」も、ペンタトニックで構成されています。だから、ずらして歌ったり(カノン)、オスティナート(同じ音の繰り返し)を加えたり、あるいは異なる2曲を同時に歌ったりしても、不快な響きにならないのです。わらべうたには様々な魅力がありますが、ときには声を重ね、その響きを味わってみてはいかがでしょう。
また、ペンタトニック楽器もオススメです。特別な楽器があるわけではありません。右の写真をご覧ください。トーンチャイム(左上)やミュージックベル(右上)では、ド・レ・ミ・ソ・ラの音だけを用意します。もう一つの楽器は、鍵盤の取り外しが可能な鉄琴(グロッケン)なので、不要な音を外しておきます。ペンタトニックで用意した音なので、複数の子どもが自由に音を鳴らしあっても、不協和な響きにはなりません。さらに、たとえば「ラ・ソ・ラ・ソ」と音が続いたときには、「なべなべそこぬけ」のわらべうたを連想し、その続きを演奏するようなこともあるでしょう。ペンタトニックの音遊びは、子どもが、重なり合う音の響きに耳を傾けたり、メロディーを構成する一つ一つの音に気づいたりすることを促します。新しいメロディーの創作につながることもあるでしょう。
わたしは、「音を聴いて何らかの印象を持ち、共鳴し、なんらかの感情を体験し、連想を展開する」ことを『音感受』と呼んでいます(『子どもの音感受の世界ー心の耳を育む音感受教育による保育内容「表現」の探求』萌文書林、2016)。今後は、子ども音感受の実際と音感受教育のアイディアを中心に、お話をさせていただく予定です。どうぞ宜しくお願いいたします。
(執筆:吉永早苗,2016年10月1日)