投稿日: Sep 16, 2017 11:21:35 AM
森田真生・文
脇坂克二・絵
福音館書店
月刊たくさんのふしぎ
2017年9月1日
文を書いたのは32歳の数学者。「小さい頃から数が好きで、怪我をしても、たし算の問題を出されるとすぐ泣きやんだ。(巻末ふしぎ新聞)」のだそうです。 私=アリと仮定して、自分が取り組んでいる数学あるいは数そのものを客観的に問い直すという、いかにも数学者らしいけれど数学者には珍しい論理立てから出来上がった絵本。
アリには個数があるのか、序数はあるのか、そこから疑問は始まる。そして、アリには別の数学世界があるのではないか、他の色々な生物にも人間には想像できない数学を持っているのではないか、と膨らんでゆく。最後の方で「ぼくは、小さなアリになってはじめて、大きな数学の宇宙の入り口にいた。(45ページ)」と記している。
一般的な絵本としては、やや文字の比率が高い。絵を描いたのは40歳年上の脇坂克二で、抽象的な概念を画面ごとに大胆な変化をつけて、子どもが興味を持続しながら読んでいけるような工夫が周到になされている。
「数学者は、家族や友だちや、好きな人を思うのと同じくらい、真剣に数や図形のことをかんがえているのだ。(7ページ)数や図形の声に耳をかたむけ、心かよわせあうこと。それが、数学者のいちばんたいせつな仕事なのだ。(9ページ)」がこの絵本の中心メッセージかと思う。この絵本を読んだ多くの子どもたちが、数学を好きになってくれるのではないかと思う。
(紹介:清流祐昭, 2017年9月6日)